高橋一生にしかできない「“自分を乗り越える事”さ」 『岸辺露伴』第3期を繋いだ“3”の縦軸

高橋一生にしかできない露伴の原作再現

 ドラマ『岸辺露伴は動かない』(NHK総合)第3期の2夜目、シリーズ全体の第8話にあたる「ジャンケン小僧」は、荒木飛呂彦による『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ(以下『ジョジョ』)第4部「ダイヤモンドは砕けない」のエピソード「ジャンケン小僧がやって来る!」を原案に映像化したものだ。

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 『ジョジョ』からのエピソードとしては第2期の第5話「背中の正面」(元は「チープ・トリック」)が先にあり、毎年この年末を心待ちにしているファンにとっては想定内、むしろ期待通りといった中での放送だったと言える。演出の渡辺一貴が「『ジョジョ』の世界を映像にしたいと思ったきっかけのエピソード」と話す「ジャンケン小僧」は、ファンに鮮烈なインパクトを与えた屈指の名エピソードである。

 その内容は一言で言ってしまえば、岸辺露伴(高橋一生)と大柳賢(柊木陽太)の単純明快なジャンケン勝負。入り組んだストーリー構成とシリアスな展開、強いメッセージ性を持った第7話「ホットサマー・マーサ」とは対象的でもあるが、「ジャンケン小僧」の真髄はその心理戦にこそある

 打ち合わせ終わりの泉京香(飯豊まりえ)に道先で話しかけ、その後露伴邸を尋ねてくる大柳は終始俯き、「あ……あ……あなた」と吃った口調であった。しかし、ある出来事をきっかけにして露伴と同じ「ギフト」を手に入れた大柳はみるみる自信をつけていくのだ。それはまるで「無邪気な子猫の目」から「獲物を狙うトラの目」に変化していくように。名セリフ「あなたは今……勝負の『下り坂』にいるんですよ……露伴先生。もうイッペン言いますよ。あなたは今! 『下り坂』にいるンだ!」は、露伴も認めるほどのプレッシャーのかけ方である。心理戦はやがて「強運」をどちらが味方に引き込むかへと発展していくが、最後のジャンケン勝負の前の「運だめし」として大柳が降らせる「ガラスのシャワー」での自信に満ち溢れた表情も印象的だ。

 一方の露伴は大柳にジャンケンで負けたことによって、生力を吸い取られていくかのようにみるみると疲弊していく。原作では「スタンドバトル」として、大柳のスタンド「ボーイ・Ⅱ・マン」の能力で露伴はエネルギ一を奪い取られていった。それは描写として、露伴の「ヘブンズ・ドアー」が3分の1ずつ欠けていくという視覚的にパッと分かりやすい表現だったが、このドラマ『岸辺露伴は動かない』では「ギフト(スタンド)」の像は見えないため、露伴の荒い息遣いや常にフラついている立ち振る舞い、衰弱した表情という高橋一生の演技を持って説明セリフをなしにそのことを視聴者に伝えていったのだ。

 先述した「ガラスのシャワー」で大柳は完全に「強運」は自分のところにきていると確信を持つが、その後、露伴は人生の先輩としてあることを大柳に諭す。

「他人を負かすってのは、そんなむずかしい事じゃあないんだ。もっとも『むずかしい事』は! いいかい! もっとも『むずかしい事』は! 『自分を乗り越える事』さ! 僕は自分の『運』をこれから乗り越える!!」

 人生の教訓としても心に留めておきたい『ジョジョ』屈指の名セリフだが、筆者が観ていてシビれたのは露伴が冷静さを取り戻し言った「『自分を乗り越える事』さ」のトーン。大柳がゴクリと唾を飲み込む間も効果的であり、そこから声を張り上げるでもなく、少年に教えを説くようにして落ち着き払った声で「『自分を乗り越える事』さ」と言う、あの表現は実写でしか――高橋一生にしかできない「凄み」、芝居の緩急のように思える。

 自分の「強運」だけを頼った大柳に対して、露伴は自分の力で運を変えていく。原作では登場キャラクターの「透明の赤ちゃん」を利用してジャンケン勝負に勝利していたが、ドラマでは「丸4つ」の「ホットサマー・マーサ」のデザインを逆手に取ってジャンケンに勝つ。そのデザインを見ると大柳は怒りが湧き、自然と怒りの拳(グー)を握ることに気づいていた、露伴の漫画家としての観察眼の勝利。露伴の言葉を借りれば「自分を乗り越えるってのはそーいうことなんだぜ」ということだ。

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 今回の第3期を繋げる縦軸は「3」。「ホットサマー・マーサ」の物語からすでにデザインの丸「3」つ、露伴が「藪箱法師」と入れ替わった「3」カ月、鏡の「3」回転とその数字が散りばめられていたが、大柳も「ホットサマー・マーサ」のデザインに不満を持ち、「3」つの出し手で構成されたジャンケンに魅せられていく。全く設定も、物語も異なる「ホットサマー・マーサ」と「ジャンケン小僧」を連結させたのも見事だが、そこに「四つ辻」という場所、「辻神」という存在――ドラマ『岸辺露伴は動かない』全体に通底している「妖怪」「日本神話」に着地させるところも、小林靖子の脚本力であろう。余談だが、露伴が「ガラスのシャワー」を降らせるところで、右腕をあげるポーズを取ったのは、おそらく原作の「六壁坂」扉絵の露伴を意識しての“ジョジョ立ち”だと思われる。『JOJO magazine 2022 WINTER』のインタビューで渡辺は、自分でも気づかない間に高橋が露伴を意識したポーズを取っていることがあると話していたが、これもその一つなのかもしれない。

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