『岸辺露伴は動かない』第3期の注目ポイントは? 渡辺一貴監督に聞く実写化の醍醐味

『岸辺露伴は動かない』監督インタビュー

 高橋一生が主演を務めるドラマ『岸辺露伴は動かない』(NHK総合)の新シリーズが、12月26日から2夜連続で放送される。

 2020年に放送された初回シーズンから、荒木飛呂彦による『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの生粋のファンはもちろんのこと、原作を知らない層へも広く話題となった本作。3年目となる今年も、岸辺露伴を演じる高橋一生と泉京香を演じる飯豊まりえのコンビは健在。ファンもシビれる脚本を手がけた小林靖子に、細かな演出を施し高橋が絶大な信頼を寄せる渡辺一貴をはじめとした制作陣も再集結している。

 今回の3期では 「ホットサマー・マーサ」 「ジャンケン小僧」 を映像化。「ホットサマー・マーサ」は2022年3月に発売された『JOJO magazine 2022 SPRING』収録の『岸辺露伴は動かない』としての新作エピソードで、一方の「ジャンケン小僧」は1990年代に連載されていた『ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない』からのエピソード。どちらも岸辺露伴が登場することは共通しているが、異なる設定や物語をどのように繋げていくのか、そして屈指の名エピソードとして人気の高い「ジャンケン小僧」のジャンケン勝負をどのように表現するのかが注目を浴びている。

 リアルサウンド映画部では、本日から3日間にわたりドラマ『岸辺露伴は動かない』のキャスト・スタッフインタビューを公開。初日を飾るのは、本作の演出であり、監督を務める渡辺一貴。独占取材にて聞いた「ラストシーンに込めたメッセージ」は、放送終了後にもう一度読んでほしい内容である。

荒木飛呂彦のイマジネーションを参考に

――渡辺さんにとって『ジョジョの奇妙な冒険』あるいは『岸辺露伴は動かない』とはどのような作品ですか?

渡辺一貴(以下、渡辺):僕が映像作品を演出する上で、半分くらいは『ジョジョ』、あとの30%が筒井康隆さん、残りの2割がプロレス(笑)――そういうところがイマジネーションの源泉のように思います。何か考える時に思い出すものは荒木(飛呂彦)先生の作品からが多いです。

――荒木先生の作品のどういったところに魅力を感じますか?

渡辺:セリフの言い回しや言葉のチョイスも素晴らしいのですが、一番大きいのは前例に捉われないところでしょうか。僕たちが当たり前と思っているような常識をひっくり返していく、そういう発想の面白さです。普段僕たちは馬鹿げたことを考えているうちにそれを途中でやめてしまうのですが、荒木先生はそこからさらに突飛なことを展開していくように感じていて、そういった思考が僕たちにも大事だと思っています。

――3年目を迎えての手応えというのは感じていますか?

渡辺:自分の妄想を形にしているような、演出家としては贅沢で幸せな進め方をさせていただいているので、あまりそういったことは考えたことがなくて。ただ1期で良い反響をいただいたのは、僕たちのアプローチが間違っていなかったということだと思うので、2期も3期も変わらずに、逆にそこは変えてはいけないところだと思っています。いろんな感想や反響をいただく中で、僕たちがブレてしまわないように、何か迷った時は一昨年(1期撮影時)、僕たちが何を考えていたのかに立ち戻って、その課題に取り組む。地に足をつけてやろうというのがチームの合言葉でもありました。

メッセージ性と娯楽性「違った岸辺露伴の一面を見ていただける」

ーー「ホットサマー・マーサ」「ジャンケン小僧」のエピソードを選んだ理由を教えてください。

渡辺:「ホットサマー・マーサ」は今年の春に発表された作品(『JOJO magazine 2022 SPRING』収録)で、新作がもし出たらやらせていただきたいという話は以前からしていました。題材自体もジャーナリスティックでメッセージ性があって、しかもコロナ禍の現代を彷彿とさせる世界が舞台です。いままで我々が描いてきたドラマの世界は、完全なフィクションというよりは、現実と地続きというか、ちょっとだけ離れた、もしかしたら存在するかもしれない世界という方向性で描いていました。そのフィクションの世界のリアルが「ホットサマー・マーサ」で、ガバッと我々の現実に近づいてきたというのが面白いなと思いまして。コロナにとどまらず、何か大きな災厄が起こってしまった時に人間が取る滑稽さや愚かさ、表現する側の極端な自主規制の問題、過剰なファン心理といった今日的なテーマが散りばめられていて、やりがいがあると思い選んだのが「ホットサマー・マーサ」です。「ジャンケン小僧」は前々からやりたいと思っていた題材で、そもそも私自身が『ジョジョ』の世界を映像にしたいと思ったきっかけのエピソードでもあり、3年目で満を持してやらせていただいた形です。2つの話は両極端で、メッセージ性の強いものと娯楽性の強いものですが、違った岸辺露伴の一面を見ていただけると思います。

ーーSNSにはファンの予想や実写化を希望するエピソードについての声が溢れています。

渡辺:そこまで熱心に見る方ではないんです。ラインナップに関しては、基本的には僕たちがやりたいもの、やる価値のあるもの、やるべきものをピックアップした、ということに尽きます。僕たちチームの中でもそんなに議論になったわけでもなく、自然にこの2作品に収まりました。「密漁海岸」の人気がすごいのは聞いていたんですけど、映像化するのはなかなか難しいので。いつかはトライしたいものではありますが(笑)。

ーー「ホットサマー・マーサ」ではイブを古川琴音さん、「ジャンケン小僧」では大柳賢を柊木陽太さんが演じています。

渡辺:古川さんが演じるイブは、僕たちの中ではシリーズ最強(最恐/最狂/最凶)の敵と呼んでいます(笑)。いままでも露伴はたくさんの危険に遭ってきましたが、イブに関しては命の危険に晒される。しかもイブ自体は何かに取り憑かれているとか不思議な力を持っているわけではなく、「生身の人間に追い詰められていく露伴」というのがこのエピソードの肝なのかなと。イブの愛情と裏返しの嫉妬、そこから出てくる狂気を古川さんが的確に、さらに増幅して表現しています。柊木くんに関しては、「ジャンケン小僧」をやると決まった時に、ジャンケン小僧ができる役者さんが見つからなかったらやめようという話をしていたんです。それから多くの方とお会いしましたが、柊木くんは僕よりも大人なのではと思うくらいのどっしりとした落ち着きを持っていました。原作のジャンケン小僧は、「小僧」なのでかなりアクティブですけど、柊木くんだとじわじわと迫ってくる怖さが出せる、逆にそこがリアルな捉え方をしてもらえると思っています。柊木くんしかいないというような――柊木くんに出会えたので「ジャンケン小僧」をやろうという覚悟ができました。

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