『岸辺露伴は動かない』の熱狂が帰ってきた! 「ホットサマー・マーサ」の巧みな実写化

「ホットサマー・マーサ」巧みな実写化表現

 この感覚、この興奮、この熱狂だ。ドラマ『岸辺露伴は動かない』(NHK総合)が今年も帰ってきた。

 2022年は荒木飛呂彦による『ジョジョの奇妙な冒険』の連載がスタートして35周年を迎える年。その締めくくりとして、この12月はアニメ『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』3期のNetflix先行配信(テレビ放送は2023年1月6日より)を皮切りにして、12月9日(高橋一生の誕生日)のドラマ『岸辺露伴は動かない』場面写真公開、ドラマ『岸辺露伴は動かない』展の開催、『JOJO magazine 2022 WINTER』の発売に、『ジョジョ』の第9部にあたる『The JOJOLands』が2023年2月発売の『ウルトラジャンプ』で連載が開始されることが発表されるなど、『ジョジョ』のニュースで溢れた月だった。その熱狂のフィナーレを飾るのが、このドラマ『岸辺露伴は動かない』である。

 2020年にスタートしたドラマ『岸辺露伴は動かない』も今年で3年目。すっかり年末の風物詩となっている。第3期にエピソード化されるのは2本。初日の12月26日に放送となったのが、シリーズ全体の第7話にあたる「ホットサマー・マーサ」 だ。「ホットサマー・マーサ」は、2022年3月に発売された『JOJO magazine 2022 SPRING』収録の『岸辺露伴は動かない』としての新作エピソード。2018年発表の「ザ・ラン」以来、約4年ぶりに荒木が執筆した『岸辺露伴は動かない』の71ページにおよぶ新作読切だ。

 この「ホットサマー・マーサ」は、ほかの『岸辺露伴は動かない』とは異なる(新たなと言ってもいい)設定が多々存在しているエピソードだ。その大きな要素が、岸辺露伴(高橋一生)が漫画のためのリアルな取材ができない状況となること。露伴はマスクをつけており、担当編集の泉京香(飯豊まりえ)との打ち合わせはパソコンの画面を介したリモート。ドラマ内では明言こそされていないものの、現実の世界とリンクしたパンデミックが露伴たちの世界でも起こっていることが分かる。

 改めて、自分は取材でその土地に出かけて行き漫画を描くタイプなのだと自覚した露伴は鬱々とし「動けない」でいた。そんな露伴の鬱憤を少しでも晴らしてくれる存在として新たに登場したのが愛犬のバキンだ。京香が飼っているペットのマロンや、『ジョジョ』シリーズでもダニーやイギーなど荒木作品には多くの犬のキャラクターが登場しているが、まさか露伴がこんなかわいらしい小型犬を飼い始めるとは。意外なのと同時に、それほどまでに精神的にまいってしまっているとも捉えられるだろう。気晴らしにバキンを連れて散歩に出かけた露伴は見知らぬ神社に迷い込み、巨大な「御神木」の幹の内部に祠を見つける。そこには祀られた「鏡」が置かれていた。露伴に再び好奇心が湧き出し、彼の中にある歯車が「動きだした」。

 「ホットサマー・マーサ」はコロナ禍の背景やバキンの新登場に加えて、時間が3カ月先に飛ぶという少々複雑な物語でもある。いや、正確には「飛ぶ」ではなく、「入れ替わる」が正解だろう。露伴が樹の空洞に入った瞬間、「藪箱法師」が出てきて、替わりに3カ月を過ごして帰った。「藪箱法師」とは露伴と姿もDNAも全く同じ影分身。露伴の「暗黒面」であり、「裏露伴」とも言える存在だ。時間とは不確定で、不可逆。7月7日→10月7日→1月7日と半年の間で露伴は「藪箱法師」に自由にやらかされてしまう。

 蝉が鳴き陽炎が立つ夏から落ち葉の舞う秋、木枯らしの吹く冬と季節感の演出(バキンの成長もその一つ)も見事だが、「ホットサマー・マーサ」の醍醐味は感情をあらわにする露伴の姿でもある。神主の親子(父親:酒向芳/息子:山本圭祐)は「元に戻りたい」という露伴に、「善」とか「悪」の区別はあいまいで、何が「良い事」で何が「悪い事」なのか自身の捉え方次第だと説くが、露伴にとってはそんなことは問題にしていなかった。問題視しているのは、『ピンクダークの少年』の新キャラ「ホットサマー・マーサ」のデザインの丸が「3つ」から「4つ」になっていること。

 10月7日、一度目の「藪箱法師」との入れ替わりで自分が知らぬ間に完成している原稿を見て、露伴は酷く動揺しながら京香にテレビ電話。「大問題に決まってるだろォォーッ!!」「何なんだッ!『丸4つ』ってーッ!!」と怒号を飛ばす。「丸3つ」のデザインではクレームが来るという都市伝説やネットでのいわれもない誹謗中傷。そういった表現規制を気にしてデザインを変更したという事実が露伴には許せなかったのだ。パンデミックの鬱屈も相まって露伴の声は京香のスマホ越しにもビリビリと響いている。演じる高橋一生の声量と怒りを剥き出しにした表情は思わず笑ってしまうほどだが、それでもキョトンとしている相変わらずの京香も面白い。結末を先に言ってしまえば、「ホットサマー・マーサ」のデザインを「丸4つ」に直させたのは「藪箱法師」ではなく、京香だった。そのことを察し、再び怒りが込み上げてきながらも、この状況を受け入れなければと「ホットサマー・マーサ」のフィギュアを一人握りしめる露伴がどこか切なくも見える。

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