現実世界の現在と未来を映し出す 真に意義のあるシリーズ『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』

『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』が映す現実

 日本ではU-NEXTで独占配信となった、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』のシーズン1が完結した。このシリーズは、世界で大ヒットした、あの『ゲーム・オブ・スローンズ』(全8シーズン)の前日譚となるスピンオフドラマだ。

 ここでは、そんな本シリーズの内容を紹介しながら、ファンタジーが表現し、暗示してしまった、われわれの住む、おそろしい現実の世界との繋がりについて考えていきたい。

 イギリスを連想させる広大な土地「ウェスタロス」の覇権をめぐり、複数の名家の勢力が戦争、陰謀、騙し討ちや暗殺など血塗られた争いを繰り返す……そんな、中世の歴史のような戦乱と騎士、王宮の物語に、ドラゴンなどの幻想的な伝説を加えた、ジョージ・R・R・マーティン著『氷と炎の歌』。その残酷ながら壮大で美しいファンタジー小説を原作に、大人のためのファンタジードラマ作品として、世界中で高い評価を受け、大きな人気を集めたのが、『ゲーム・オブ・スローンズ』である。

 「七王国」を統べる証である「鉄の玉座」に座ろうとする者たちの戦いと、ウェスタロス全体を覆い尽くそうとする、超自然的な脅威……その争いや、それぞれが生き延びるための苦難の物語は、かつて君主として300年もの間七王国を手中にしていた、ターガリエン一族が反乱に遭い、その座を追われるという展開から始まっている。玉座奪還を果たすため、三頭の竜を従えた“ドラゴンの母”ことデナーリス・ターガリエン(エミリア・クラーク)もまた、かつての王の一族として、戦いに身を投じていく姿が描かれている。

 時はさかのぼり、かつてターガリエン家が栄華を誇った治世の時代を、メイスター(学匠)が歴史書として記したというかたちで書かれたのが、ジョージ・R・R・マーティン著『炎と血』である。本シリーズ『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』は、このスピンオフ小説を原作に、ターガリエン家が衰退していく原因となった、「双竜の舞踏」と呼ばれる内乱を描くドラマなのだ。

 ターガリエン家の一族は、一人ひとりが自分の竜を所有し、空を飛翔させ炎を噴かせるなど、意のままに操る能力と立場を持つことが伝統であり特権であった。竜たちは王都を灰にできるといわれるほどの軍事力そのものであり、その姿がターガリエンの紋章として描かれているように、権力の象徴でもある。そんな絶大な権力を集中させるため近親結婚を繰り返し、一族の多くは白いまでの銀髪が身体的な特徴となっている。

 シーズン1で描かれるのは、内乱が起きるまでの経緯である。七王国の王ヴィセーリス・ターガリエン(パディ・コンシダイン)の世継ぎには、王の弟デイモン(マット・スミス)が有力だとみなされていた。しかし彼は暴力を求め、性的にも奔放であり、王にすら敬意を払わない尊大な性格から、ヴィセーリス王は娘のレイニラ王女(エマ・ダーシー/ミリー・オールコック)を次代の王に指名する。

 しかしその後、王の後妻となったアリセント(オリヴィア・クック/エミリー・キャリー)は、王との間に生まれた息子に王位を継承させようとする。名家の勢力は、レイニラ側(黒装派)とアリセント(翠装派)に分かれ、緊張が高まっていくのである。

 『ゲーム・オブ・スローンズ』では、それぞれの家の人々の重要人物が、そのときどきで主人公となり、派閥が数多く描かれる混沌とした内容だったが、本シリーズでは基本的に、黒装派と翠装派という、シンプルな対立構造が置かれているため、重要な登場人物が絞られ、比較的見やすい内容になっているといえよう。

 また、暴力描写は相変わらず過激ではあるものの、『ゲーム・オブ・スローンズ』の大きな特徴であった性的なシーンは、このシリーズではかなり抑えられ、より必然性のある場面に限られている。人間の本質的な部分を描くという意味で、このような欲望にまみれた部分を表現することもシリーズの狙いではあるものの、その比重が軽くなっているのは、視聴者のシリーズへの信頼が強まり、扇情的なシーンで惹きつける必要がなくなった状況を意味している。

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