『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』圧巻のフィナーレ レイニラが世界の破滅へ足を踏み出す

『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』圧巻の最終話

 いよいよPeak TV王者の帰還だ。最終回のサプライズとクリフハンガーに思わず悲鳴を上げ、次シーズンはいったいいつになるのかと悶絶する……『ゲーム・オブ・スローンズ』で体験したあの興奮が還ってきた。『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』第10話は携帯端末での視聴を度外視したスケールの大きい画作りと(美術が素晴らしい)、ドラゴン対ドラゴンのチェイスシーンに圧倒され、今からシーズン2が待ち遠しくて堪らなくなる仕上がりだ。

※本稿には『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』第10話のネタバレを含みます

 『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』は『ゲーム・オブ・スローンズ』と似て非なる作品でもある。約20年間の出来事を描くシーズン1の構成は実質2〜3シーズン分に相当する密度で、その“倍速”ストーリーテリングは新たなファンを引き込むためにも必要な手法だった。映画とは異なり、長い時間をかけて物語るTVシリーズが時にその“遅さ”を美点としてきたのに対し、省略の妙で一気に本題へと突入する緩急自在な語り口はショーランナー陣による周到なシーズン構成によるものだ。そして、これまでも本連載で触れてきたようにアメリカをはじめ世界中で起きている社会問題を巧みに取り入れ、ウェスタロスと私たちの生きる現在(いま)を地続きにする同時代性への意識は『ゲーム・オブ・スローンズ』よりも遥かに強い。

 クーデターという分断と対立を前にしてもなお、レイニラ(エマ・ダーシー)は戦争の火蓋を切ってはならないと踏み留まり続ける。キングズランディングを脱出したレイニスによって王位簒奪を知らされた彼女は、ショックのあまりデイモン(マット・スミス)との第3子を死産してしまう。原作『炎と血』では怒り狂ったレイニラが恐ろしい呪詛の言葉を吐きながら出産するという禍々しい描写をされているが、TVシリーズでは内なる怒りに抗うかのように我が子を引きずり出し、弔う。王位簒奪の張本人であるオットー・ハイタワーを前にしても、アリセント(オリヴィア・クック)からのメッセージを機に殺戮を回避するレイニラの理性が強調されている。

 対して開戦論を唱えるデイモンは何をしでかすかわからない危険な状態だ。彼はドラゴンストーン島にある“竜の山”へ入り、先々代ジェヘアリーズ王の死後、乗り手のいないヴァーミサー、シルバーウィングの2頭の竜を戦力に加えようとする。“古代ヴァリリアの兵器”と言及されるドラゴン同士が戦う最終戦争となれば、かつてのヴァリリア同様、王土を灰にすることになりかねない。レイニラは「野心を超えた大義を知っているでしょ?」と征服王エイゴンから伝わる“氷と炎の歌”を引き合いに諌めようとするが、なんとデイモンは亡きヴィセーリスからこの話を聞かされていないのである。デイモンは言う「兄は予言や先触れに取り憑かれていた。粗末な治世に意味を見出すためだ」。共存の理想を信じ、世界の命運を知っているのはレイニラただ一人なのだ。

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