北山宏光と生田絵梨花の七変化に注目 『世にも奇妙な物語』新作のテーマとは?
フジテレビ系『土曜プレミアム』にて6月18日21時から放送される『世にも奇妙な物語 '22夏の特別編』は、全体のテーマとして「相対主義」を興味深い形で4つの短編に取り入れている。
例えば一本の映画があったとして、人によっては涙溢れる感動ヒューマンドラマだと感じたものが、誰かにとってはホラーであること。同じ景色を見ていたとしても、“同じもの”を見ているかはわからないこと。かのプロタゴラスによる「人間は万物の尺度である」が、まさにこれを表している。すなわち、物事は各人の感覚などの認識上のバイアス、そして言語などの記号上のバイアスや文化的バイアスによって理解されるものであるため、その捉え方も全ての人において異なっているということだ。簡単に言えば価値観は人それぞれで、絶対的な価値観も存在しないことを指している。この考えは、今回の『世にも奇妙な物語』を観る上での重要なヒントになるだろう。
今回は4作品のうち3作品が原作のある物語だ。原作が存在していること自体、このシリーズにおいて珍しいことではないが、この2年間の中では比較的多い方。特に最初のエピソード『オトドケモノ』はオクスツネハルによる原作が集英社『少年ジャンプ+』に現在も無料で2話(物語の中盤まで)掲載されている。
在宅ウェブデザイナーの主人公・山辺タクヤ(北山宏光)は、看護師の妻・ゆかり(小島藤子)と結婚して3年目で仲睦まじい夫婦生活を送っていた。主人公の視点で語られる本作は、そんな彼がある日偶然スマホで「オトドケモノ」というアプリを見つけるところから始まる。何でも送料800円かつ2秒で届くという怪しさ全開のアプリなのだが、その怪しさや送料の高さを深く考えるよりも快適さを求めるカップルの姿は、現代的な風刺にも捉えられる。そしてアプリに依存した生活を送ってしまったが故に、二人がとんでもない事態に巻き込まれる、という物語だ。
主演を務めるのは、今回が『世にも奇妙な物語』初出演でもある北山宏光。北山が演じる“夫”といえば、記憶に鮮明に残っているのが『ただ離婚してないだけ』(テレビ東京系)での怪演である。実は今回も、最初は奥さんと仲が良かったのにある事件をきっかけに夫婦仲が悪化し、廃人化するという展開で再びあの北山の素晴らしい演技力が発揮されている。完全にサスペンスをものにした印象の彼だが、共演する小島藤子の狂気も負けてない。この物語も、どれだけ仲良く、共に時間を過ごした相手だとしても、だからといって完全に通じ合い、同じ価値観や考えを持っているわけではないという教訓が潜んでいる。
これは次に続く、『何だかんだ銀座』にも通じる。村崎羯諦による同名短編小説(小学館文庫『余命3000文字』収載)が原作の作品だ。銀座の公園の木に銀座の蜂蜜を塗って、寄ってきた野生のお金持ちを捕獲して小学生が飼うという、今回の放送の中で最も視覚的にぶっ飛んでいる怪作。主人公の祐介(岩田琉聖)が捕まえたのは、ニホンオオカネモチ(有田哲平)。食べ物は全て銀座のものでなければ病気になるなど、飼育コストが馬鹿高い生物なのだが、彼はそれをカブトムシやクワガタの感覚で飼い始める。
子供にとって、わざわざ高い食べ物を食べ、ゴルフやパーティーに参加していないと死んでしまうのかと思うくらい派手好きなお金持ちの生態は謎だという、面白い視点から始まる本作。何より“謎のお金持ちのおっさん”を演じている有田の存在感だけで面白いというズルささえあり、彼の顔芸は本作の魅力だ。異様で気味が悪いのに、視覚的にだんだん慣れてきた頃に二人の友情に感動したり、若干泣けそうになったりとこちらの価値観を揺さぶってくる。しかし、この作品にもやはり前述した今回の全体的なテーマが落とし穴として存在していた……。