北山宏光と生田絵梨花の七変化に注目  『世にも奇妙な物語』新作のテーマとは?

『世にも』’22夏の特別編の見どころは?

 この相対主義をより俯瞰的に理解できるのが、『メロディに乗せて』かもしれない。今回、唯一のオリジナル脚本である本作は、生田絵梨花演じる主人公・村野叶海が、ある日突然“脳内メロディ症候群”という奇病にかかってしまう。それは、脳内に流れる音楽に合わせた行動をとらないと脳が異常反応を起こし、最悪の場合は死に至るという病だった。シリアスなプレゼンの場面なのに、「笑点のテーマ曲」が流れてしまったら「ざぶとん1枚!」と、とぼけないと死ぬなんてかなり生きづらい設定だ。しかも、この世で同じ病気にかかっている人は3人しかいない。しかし、なんと奇跡的にも彼女はそのうちの1人・進藤充(稲葉友)と出会う。運命を感じた2人は惹かれ合い、恋人になるが、ある日事件に巻き込まれてしまう……。

 同じ事件を体験しながらも、それぞれの脳内で流れる“メロディー”が違うというのは相対主義の図解そのものだ。あらゆるメロディーがお題のようになり、それをシチュエーションごとに演じ分ける生田の七変化が本作の見どころであり、頑張っている彼女をつい応援してしまう。そしてラストのメタ的な展開も、今回のテーマ性を俯瞰的に捉えた本作ならではの面白い仕掛けである。

『電話をしてるふり』

 最後の『電話をしてるふり』は、これまでの3作品を観た上で私たちが本作をどう観るのか、試されるような作品だ。7年ぶりの『世にも奇妙な物語』出演&初主演の山本美月が演じる主人公は、普段からナンパ撃退目的で電話がかかってきたフリをする。しかも、その電話の相手は父親ということで、面倒臭い男避けに使っているのだ。その日も、普段通りこの手口でナンパ男を諦めさせようとするが、その男がフリをしていることに気づき、電話を奪って嘘であることを認めさせようとする。しかし、男がスマホに耳を当てると、本当に主人公の父親と繋がっていたのだ。そして、その父親は彼女が子供の頃に亡くなっていて……。

『電話をしてるふり』

 山本美月の泣きの演技が素晴らしい一作だが、この物語もやはり、大好きなお父さんとのコミュニケーションができるという感動作と捉えるか、死者と繋がる電話というホラー作と捉えるか、冒頭のイントロダクションでカップルが観た映画と同じようなことになっている。

 『世にも奇妙な物語』そのものが、そういった人によって作品の印象が違うことを象徴するシリーズかもしれない。そして、検索画面しかないUIで明らかに説明がつかないスマホアプリや、蜂蜜に吸い寄せられるお金持ち、世界で3人しかいない奇病の持ち主が日本に複数いること、どう考えてもお父さんと繋がっていないはずの電話など、“現実で考えたらありえないもの”尽くしの『’22 夏の特別編』。その“ありえない”を一度、“ありえる”として固定観念を外すところから始まるという、『世にも奇妙』に通底する楽しみ方を再度教えてくれる回だ。

■放送情報
土曜プレミアム『世にも奇妙な物語’22 夏の特別編』
フジテレビ系にて、6月18日(土) 21:00~23:10放送
ストーリーテラー:タモリ

『オトドケモノ』
出演:北山宏光(Kis-My-Ft2)、小島藤子、樋口日奈(乃木坂46)、綾田俊樹ほか
脚本:荒木哉仁
演出:淵上正人
編成企画:渡辺恒也、狩野雄太
プロデュース:中村亮太
制作:フジテレビ
制作著作:共同テレビ

『何だかんだ銀座』
出演:有田哲平(くりぃむしちゅー)、東根作寿英、紺野まひる、岩田琉聖ほか
原作:村崎羯諦 『何だかんだ銀座』(小学館文庫『余命3000文字』収載)
脚本:相馬光
演出:植田泰史
編成企画:渡辺恒也、狩野雄太
プロデュース:中村亮太
制作:フジテレビ
制作著作:共同テレビ

『メロディに乗せて』
出演:生田絵梨花、稲葉友、金剛地武志ほか
脚本:天本絵美
演出:城宝秀則
編成企画:渡辺恒也、狩野雄太
プロデュース:中村亮太
制作:フジテレビ
制作著作:共同テレビ

『電話をしてるふり』
出演:山本美月、森口瑤子、神尾佑、土佐和成ほか
原作:『電話をしてるふり』バイク川崎バイク(ヨシモトブックス『BKBショートショート小説集 電話をしてるふり』所収)
脚本:天本絵美
演出:吉村慶介
編成企画:渡辺恒也、狩野雄太
プロデュース:中村亮太
制作:フジテレビ
制作著作:共同テレビ

(c)フジテレビ
公式サイト: https://www.fujitv.co.jp/kimyo/
公式Twitter:https://twitter.com/yonimo1990

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