『海街チャチャチャ』に『ボーイフレンド』も  韓国ドラマに着々と浸透するフェミニズム

『海街チャチャチャ』韓国ドラマが描く女性像

歯痛は心の痛みと同じ……自分以外にその辛さがわからない

 とはいえ、高齢者がとりわけ多いコンジンでは、極めて都会的で現代的、洗練された女性歯科医の登場とそのライフスタイルは、かなり異質に映った。町内での関心の集め方は『椿の花咲く頃』のシングルマザー、ドンベク以上だったかもしれない。だが、ヘジン自身の高慢な言動もあって、当初は誤解をされ排斥を受けてしまう。

 ヘジンは自ら手に入れた歯科医としての専門性や技術、社会的地位に誇りを持ち、「美人ですね」と言われるよりも「腕がいいですね」と言われたほうが断然嬉しい。それは素晴らしいことだが、コンジンのような港町を実務的に支えてきたのはガムニおばあちゃん(キム・ヨンオク)をはじめとする多くの女性たちだ。自分の人生を否定されれば、誰でも傷つく。「昔は貧しくて女性が高等教育なんて受けられなかった」とガムニがこぼしていたのも印象的だった。やがて“ホン班長”ことホン・ドゥシクのおかげもあって、ヘジンがコンジンの女性たちと関わり合うようになってきたが、ドンベクや『愛の不時着』のセリのように世代を超えた交流と連帯が生まれる過程は1つの見どころとなっていくはず。

 例えば、第3話でガムニにインプラント治療が必要だと分かると、「誰かのために生きるならば、まず自分をいたわってほしい」と切に訴えるヘジン。それは、病気を抱えながら夫や子どもを常に優先してきた母を亡くしたからこそ沸き出てきた助言だろう。ガムニの世代は子や隣人のことはお節介なほど気にかけるが、自分のことは後回し、自分自身をいたわることを知らない。そんなガムニに、「歯痛は目に見えないから、自分以外にその痛みの辛さがわからないんです」とヘジンは言う。その痛みは誰しもが心に秘めている、その人自身にしかわからない喪失感や悲嘆の抱え方ともよく似ている。

 韓国ドラマではお互いを思いやるとき、まず先に「ちゃんと食べているか」という言葉が出てくるが、食べるためには歯の健康が何より大事。ヘジンが歯科医であることは、これからも随所随所で活かされていくに違いない。

 何よりも、「顔、身長、学歴、職業、全部にうるさい」はずのヘジンが気になって仕方がないホン・ドゥシクとは、いったい何者なのか? 気が利いて思いやりに溢れ、器用な彼は何でも屋としてコンジンでは重宝されており、『椿の花咲く頃』のヨンシクよりも断然頼りになりそう(!?)だ。ドゥシクに促され、男性陣が女性陣に甲斐甲斐しくおやつを配る姿もあるくらい。ヘジンと共に働く歯科衛生士で親友のミソン(コン・ミンジョン)が患者からセクハラされたときには、果敢に立ち向かったヘジンとともに一撃をくらわせた。しかも、「被害者に比べたらこんな痛みなど……」と、目に見えない痛みに寄り添える稀有な男性でもある。

 まさに非の打ちどころがないドゥシクだが、彼の“見えない痛み”も今後明らかにされていくだろう。ドゥシクが抱える闇やヘジンの喪失感などは、歯の治療のように完治は難しいかもしれない。ただ、2人の痛みに、お互いがどんな影響を及ぼし合っていくのかは最後まで見守りたい。

■配信情報
Netflixオリジナルシリーズ『海街チャチャチャ』
Netflixにて独占配信中、毎週土曜・日曜に新着エピソード配信
脚本:シン・ハウン
演出:ユ・ジェウォン
出演者:シン・ミナ、キム・ソンホ
写真はtvN公式サイトより

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