バディコメディとしても面白い 韓国の徴兵制に迫るNetflixオリジナルシリーズ『D.P. 』

徴兵制を取り巻く社会問題を描く『D.P.』

 Netflixオリジナルドラマ『D.P. -脱走兵追跡官-』(全6話)が8月27日に一挙配信された。原作は韓国のウェブトゥーン(デジタルコミック)で累積閲覧数1000万回を越えた、キム・ボトン作『D.P 犬の日』だ。主人公のアン・ジュノ(チョン・ヘイン)は、韓国陸軍憲兵隊の二等兵として服務する中で軍脱担当官のパク・ボムグ(キム・ソンギュン)に実直な性格と観察眼の鋭さを買われ、脱走兵を追う組織、軍務離脱逮捕組のD.P.(Deserter Persuit=脱走兵追跡)にスカウトされる。そしてハン・ホヨル(ク・ギョファン)とバディを組み、様々な事情を抱えた脱走兵を彼らが追う、というのが本作のメインストーリーである。

主演を務めるのはチョン・ヘイン

 チョン・ヘインは、2014年にドラマ『百年の花嫁』で俳優デビューし、2018年、最も話題になった韓国ドラマ1位に選ばれた『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』で初主演を果たした。以降、ドラマ『ある春の夜に』(2019年)、映画『ユ・ヨルの音楽アルバム』(2019年)でも主人公を演じ、今注目の若手俳優の一人だ。

 本作でヘインが演じるのは、アン・ジュノという一見寡黙な青年。子どもの頃から暴力を振るう父親に殴られないために修得したボクシングを得意としている。この役を演じるため、撮影の3か月前からボクシング練習に励んだというヘインの身体は、見事に鍛え上げらたものだ。

 暴力的な環境で育ち、諦めにも近い無気力感と、父親の暴力から母親や妹を守りたいという本能的に身につけた正義感を併せ持ったジュノ。そんな彼が入隊し、服務生活やバディのホヨルと共に過ごすD.P.での活動の中で、どう変化し、また周囲の人間に影響を与えていくかというのは本作の見所の一つである。

 くわえて、Netflixオリジナルドラマ『刑務所のルールブック』(2017年)でチョン・ヘインが演じた陸軍大尉のユ・ジョンウに魅力を感じた人にとっては、今作のヘインも間違いなく期待を裏切らないだろう。

徴兵制、服務生活の厳しい上下関係や壮絶ないじめを描く

「大韓民国の男子は法の定めるところにより兵役の義務を遂行しなければならない」ー大韓民国兵役法 第3条

 これは本作の冒頭、画面上にタイプライターで打たれる文言だ。

 韓国の男性は、満18歳で徴兵検査対象者となり、19歳になる年に兵役判定の検査を受ける。そして病気などの特別な事情がない限り、満20歳~28歳の誕生日を迎える前までに入隊するというのが決まっている。ジュノが服務する陸軍の服務期間は1年半。入隊後、5週間の基礎軍事訓練を経て、配属先が決まる。ジュノは、身長が175cm以上という理由だけで、軍事警察である憲兵に決まった。

 「犠牲なくして人間は何も得られない。痛みのない教訓は無意味だ」。これは、第1話で一等兵のチョ・ソクポン(チョ・ヒョンチョル)が、「好きなアニメのセリフだよ」とジュノに語りかけた言葉である。ちなみに、この好きなアニメは『鋼の錬金術師』を指している。

 本作で特筆すべきは、服務中の兵士が脱走に至る大きな原因の一つでもある、軍の中で起きている厳しい上下関係や壮絶なイジメの描写だ。韓国の軍隊では、入隊するとまず二等兵の階級が与えられ、時間の経過と共に一等兵、上等兵、兵長と階級が上がっていく。

 服役中に共同生活をする兵舎の大部屋では階級の隔てがないため、二等兵のジュノをはじめ、部下たちは上官である兵長のファン・ジャンス(シン・スンホ)から殴り蹴られ、周りも見て見ぬフリをするという生活が日常的に繰り広げられる様子が描かれている。第1話では、ジュノとソクポンが大部屋の釘が刺さった壁の前に立たされ、そこでファンに殴られる様子が映し出された。頭の後ろに釘がある位置で殴られるため、気をつけなければ頭に刺さってしまう。ソクポンの後頭部からは、血が流れていた。

 冒頭の言葉のように、この時間を耐え抜く各々の精神が必要となってしまう環境なのだ。この上下関係は大部屋や服務中の兵士たちだけではなく、兵士たちのさらに上官である職業軍人にも存在し、D.P.の担当官パク・ボムグもまた悩まされている様子を窺うことができる。この、軍の中に永遠に存在する必要以上の上下関係が、兵士たちの悲しい脱走に繋がっていく。

 韓国では、平均して毎年約700人の兵士達が脱走していると言われている。また、軍隊内での集団暴行や強制飲食などのいじめを起因とした乱射事件や自殺が過去に起きたこともあり、今作で描かれている内容は、実際に韓国の社会問題の一つとなっているのだ。この事実を頭の片隅に置きながら本作を観進めていくと、息を飲むような瞬間がいくつか訪れる。



インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる