『海街チャチャチャ』に『ボーイフレンド』も  韓国ドラマに着々と浸透するフェミニズム

『海街チャチャチャ』韓国ドラマが描く女性像

 日本で公開される洋画のポスターが現地のデザインから一変して、“なぜ、こうなった!?”となるのは映画ファン“あるある”の1つだろう。それは韓国ドラマにも当てはまり、昨年も現地のキービジュアルと日本のキービジュアルが数作品並べられ、日本ではパステルピンクに偏った“ラブコメ”押しのビジュアルや、男女の“恋愛”を強調させる作品タイトル・キャッチコピーに変更されがちとTwitter上で指摘されたことがあった。

 『愛の不時着』や『梨泰院クラス』などを目にするまで、韓国ドラマに興味を持った新規層がなかなか手を伸ばすことができなかった要因が、少なからず“韓流=ラブコメ”という固定イメージにあったことは否めない。だが、宣伝で打ち出されるビジュアルからは見えてこない問題提起やメッセージが込められているのが、韓国ドラマの“あるある”。私たちがなぜ、韓国ドラマに惹かれるのか。なぜ、観ていて胸がすくのか、目頭が熱くなって仕方ないのかは、その辺りに理由があるように思う。今回は、近年のドラマから現在配信中の『海街チャチャチャ』まで例にとって考えてみた。

シスターフッドや尊厳を持って生きることが盛り込まれた韓国ドラマ

 まず最近で、“韓国ドラマ、日本に来たらなぜ、こうなった!?”を強く感じたのが、『恋愛ワードを入力してください ~Search WWW~』のタイトル。ポータルサイト業界1位を争う3人のアラフォー女性たちの仕事へのプライドとシスターフッドが大きな柱となっていたのに、原題の『検索ワードを入力してください:WWW』は“恋愛ワード”になった。新鋭の年下男子チャン・ギヨンの魅力を大いに打ち出したかったのは理解できるが、私たちが検索するのは恋愛だけではない。

 年下男子ブームを巻き起こした、『愛の不時着』ソン・イェジンと『D.P. -脱走兵追跡官-』チョン・ヘイン共演『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』も、実は韓国の#MeToo運動の中で生まれた作品で、セクハラに耐えてきた女性主人公ユン・ジナが反旗を翻す様を描いていた。ユン・ジナは『82年生まれ、キム・ジヨン』の主人公と同世代だ。

【公式】「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」予告編

 また、主演のパク・ボゴムが兵役服務中ながら改めて注目されている『ボーイフレンド』は、異国の地で運命的に出会ったソン・ヘギョ演じるホテルCEOと新入社員の年の差恋愛だけではない。政治家の娘、財閥御曹司の元妻である女性チャ・スヒョンが彼との恋愛をきっかけに、その肩書きから解き放たれ、頑なな心を溶かして初めて自分の人生を手に入れていくのも見どころ。女性主人公の生き様を追うストーリーが肝心なのだ。

『海街チャチャチャ』の自立した主人公ユン・ヘジンに注目

 Netflix Japanが、次なる韓ドラブームを巻き起こす“本格ラブコメ”と位置づけている『海街チャチャチャ』。『スタートアップ:夢の扉』でブレイクしたキム・ソンホの多彩で新しい魅力が生き生きと溢れ、シン・ミナとのケミストリーも抜群。江原道チョンホ市のコンジン洞という架空の海辺の町を舞台に、シン・ミナ演じるソウルの歯科クリニックで働く専門医ユン・ヘジンが亡き母との思い出が詰まったコンジンで自身のクリニックを開業することから物語は始まる。

 第1話冒頭、彼女がソウルを離れるきっかけになるエピソードには、『椿の花咲く頃』や『パラサイト 半地下の家族』のイ・ジョンウン演じる、マンションの“隣人の母”が登場する。彼女の娘はヘジンと同じ年頃だといい、ヘジンと同様に超高層マンションの高層階に暮らせるほどの収入がある。偶然出会ったその“隣人の母”は言う。「結婚は? 自分の稼ぎで暮らせるなら結婚は必要ないわね」「最近の人は出前を頼みすぎる、健康のためには自分で作らないと」。そんなふうに世話を焼くのは、ドラマでよく描かれるキャリア女性の母の典型的な姿だが、ヘジンにとってはそれが嫌味にはならなかったようだ。

 ヘジンの母はコンジンへの家族旅行の後、まだ幼い彼女を遺して病気で他界している。“生きていたら、こんなふうに世話を焼かれたのかもしれない”と、この一件に背中を押されるようにコンジンへの再訪を決意するヘジン。「亡くなった母の懐に抱かれているような気がする」と、コンジンで刺身店を営む町内会長(統長)のヨ・ファジョン(イ・ボンリョン)のふとした言葉が、『椿の花咲く頃』を思い起こさせる海辺の風景とともにヘジンや見ている我々の胸にもすっと沁み込んでくる(ロケ地が同じ浦項市内だそう)。

 また、キム・ソンホ演じる、87年生まれの“ホン班長”ことホン・ドゥシクが「1つ年上」と話していたことから、ヘジンは88年生まれらしい。物心ついたときには映画『サムジンカンパニー1995』のようにグローバル化が国策として推し進められており、1997年には通貨危機により格差が広がり学歴社会がいっそう進行、ヘジンはその中で女性のひとりっ子ながら歯科大学に進み、専門職につくことができた。ヘジンの場合は父親に育てられたが、『82年生まれ、キム・ジヨン』を知る方なら、ヘジンがどんな思いで学生時代を過ごしたか、“隣人の母”と同じ親世代がどんな思いで娘を育ててきたのかは想像に難くない。コンジンで知り合ったカフェの少女ジュリにも、ヘジンが「夢を叶えるには大学に行かないと」と諭すシーンがある。



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