『天国と地獄』それぞれが“あるべき姿”を取り戻すラストに 綾瀬はるかと高橋一生に拍手

『天国と地獄』綾瀬はるかと高橋一生に拍手

「母の願いだった気がするんです、あの入れ替わりは。際限なく間違っていく息子2人を何とかしてくれって」

 先の読めない展開で視聴者を魅了し続けた、日曜劇場『天国と地獄 〜サイコな2人〜』(TBS系)がついに最終回を迎えた。

それぞれが“あるべき姿”を取り戻すラストに

 この世界は、真面目に正しく生きる人が、真っ当に陽の目を見るほど優しくはない。持って生まれたものも決して平等ではなく、持っている人はさらに多くを持つチャンスに恵まれ、持たざる人はさらに奪われ続ける。そんな世の中を生きる術として、私たちは自分自身を強くさせるために「こうあるべき」を作り出すのかもしれない。

 10才の望月彩子(綾瀬はるか)が濡れ衣を着せられた悔しさから「いわれなき罪を誰も背負うべきではない」と警察官を目指したことも、奪われ続ける人生を振り返り東朔也(迫田孝也)が「余命僅かな自分が世の中のゴミを掃除するべきだ」と連続殺人犯・クウシュウゴウになったことも、日高陽斗(高橋一生)が彩子を守るために「一切の罪をかぶるべきだ」と嘘の供述をしたことも……。

 その「こうあるべき」が、美しい「正義」となるか、見るに堪えない「不義」となるか。それは、立場ひとつで簡単に見誤ってしまうほど、実は危ういものだ。だから、正してくれる人との出会いがあるかどうか。それが、まさしく天国と地獄の境目なのではないだろうか。

 最終回は、彩子を筆頭に、陸(柄本佑)、河原(北村一輝)らが、総出で日高の間違いを正していく展開に。それは、同時に彼ら自身のズレてしまった「あるべき姿」を正す結果にもなっていく。

 陸は、日高が彩子を守ろうとしているのなら、その流れに「乗るべきでは」とSDカードの存在を隠してしまう。だが、師匠である東が最期に何を望んでいたのかを思い出すことで、自分が「何をするべきか」を冷静に見つめて動き出す。

 また、強引な違法捜査もためらわない河原の言動は、手柄欲しさの暴走に見えなくもない瞬間もあった。しかし、河原もまた「真相を明らかにするべき」という正義に立ち返る。東のやったことは殺人という許されるべきではない行為だが、そこから東の“声”を感じ取ることができたのは、客観的に情報を集め続けてきた河原しかいなかった。

誰も“クウシュウゴウ”にはなりえない

 そして、東自身もSDカードに、罪を自白する映像を遺していた。罪を重ね続け、引き返すこともできなくなってしまった男が、最期に「やるべきこと」に気づけた瞬間だったのかもしれない。ただ、彼にはどのような形で、そのカードが使われるのかも、きっとわかっていなかっただろう。

 結果として、弟の日高の濡れ衣を晴らすことになったが、陸が気づかなければ、河原が耳を傾けなければ、そして何より彩子が必死に走らなければ……このエンドには向かわなかった。そう思うと、つくづく私たちの人生は、1人ひとりの想いが絡み合ってできあがっていることに気づかされる。

 彩子が走り続けられたのも、入れ替わりという奇想天外な現実をも信じてくれる八巻(溝端淳平)や陸、コアース社のメンバーがいたからだ。そして陸が、師匠の最期の願いを思い出せたのは、日高の父が東のことを気にかけて足を運んだから。そして、河原が改めて自らの初心に立ち返ったのは、常に正義感を刺激してくる彩子の存在があってのこと。

 きっと「いるのにいない」なんていう、誰も空集合な状態にはなりえないのだ。魂の入れ替わりが起きるくらい、とんでもない事態が起きない限り、私たちは常に誰かと関わり続け、影響を与え合って生きている。

 この世に存在していないも同然なのではないかと、叫んでも誰にも声が届かないのではないかと、どんなに絶望したとしても。手を差し伸べてくれる人は必ずいる。それを振り払ってまで「実行するべき」と頑なになっているときには、「その“こうあるべき”は正義かどうか」を振り返るチャンスといえそうだ。

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