『鎌倉殿の13人』異例のキャスト発表はいかにして生まれた? プロデューサーに裏側を聞く
“知らない時代”の入り口に
――『鎌倉殿の13人』の舞台や登場人物は、戦国時代や幕末にくらべると、あまり馴染みのある題材ではないわけですよね。今後「鎌倉時代にどう興味を持ってもらうか」という課題もあるかと思うのですが、その入口を作りたいという狙いもあったのですか?
長谷:「そのようになっていけばいいな」と考えています。たとえば、幕末が舞台の大河ドラマでしたら、坂本龍馬を誰が演じるのか? といった引っ掛かりがあるのですが、鎌倉時代はメジャーな時代ではないので引っかかりが少ない。だったら自分の好きな役者さんが演じる役はどういう人物だったのかを調べてみようというような入り口を用意したいという気持ちはありますね。
――大河ドラマって特殊なジャンルのドラマで、『麒麟がくる』を筆頭に、みんなが知っている歴史上の出来事をドラマ化するわけです。『鎌倉殿の13人』のように前提となる知識が共有されていない時代を「みんなが知っている」という段階に持っていくことは、とても難しいですよね。
長谷:おっしゃるとおりでして、その「知らない」ということを、三谷さんも我々も前提としています。もちろん詳しい人も多くて、三谷さんも大河ドラマが好きで『鎌倉殿の13人』と同じ時代を描いた1979年に放送された大河『草燃える』をリアルタイムで観ていて好きだったそうで、とても詳しい。でも僕も川口もそんなに詳しいわけではない。我々のようにあまり詳しくない人が、どうやったら楽しめるのかということを考えていきたいんですよね。「情報」として伝わることと「感情」として伝わることは、違うと思うんです。今回、僕らも三谷さんも意識しているのは、観ている中での知識がなくても面白いものは面白いはずなので、知識がないからこそ感情として楽しめるドラマを目指しています。
――制作発表会見で三谷さんが『鎌倉殿の13人』の人物相関図をホワイトボードに書いて『サザエさん』や『ゴッドファーザー』を例に説明する場面がとても面白かったです。教育番組ではありませんが、作者が歴史的背景を説明するところから入っていくというのは、果敢な挑戦だなと思うんですよね。
川口:僕自身も歴史には疎いので、最初の会見の時の三谷さんの説明は、非常に参考になりました。一方で、今回の『鎌倉殿の13人』の情報を伝える時にも、細かい工夫をたくさん行っています。たとえば、今回の会見で用いた人物相関図は色分けとカテゴライズだけにしています。キャラクターの情報もキャッチの一文だけです。役柄の情報は出演者のみなさんが役に対して感じた言葉を介して発表した方が、配役のことがより深く伝わるかと思いまして。
――ニュース記事を配信する立場としては、「演じる役はこういう人物です」と、建前上書かないといけないので、資料文献などで調べて「史実では~となる」と補足したのですが、確かに相関図は書いてなかったんですね。
長谷:人物相関図も時間の経過とともに変わっていく時代なんですよね。友好関係にあったはずの人たちが敵対したり、逆に敵が味方になったりと、関係性がどんどん変わっていくことが見所なので、そこはあえてフラットに書きました。というよりは、我々も書こうとしたのですが、どの時点の関係性を書けばいいのかと悩んだんですよね(笑)。だったらいっそ書かない方が楽しんでもらえるのかなと思いました。
――鎌倉時代って始まりと終わりはなんとなくわかるのですが、真ん中ぐらいの時期に何が起きていたのかはよくわからないですね。参考文献もわからないですし。
長谷:私も、なんで鎌倉時代の将軍が途中から「源」じゃなくなるのかぐらいのところから調べはじめたので、なるほど、そういうことか、と思いましたね。
――わからない時代を書くということは、やはり難しいのでしょうか?
長谷:脚本家の領域なので、そのあたりは三谷さんに伺わないとわからないのですが、昔の時代になるほど、残っている資料が少ないんですよね。ただ、今回でいうと『吾妻鏡』という鎌倉時代後期に書かれた幕府公式の歴史書がありますので、「~年~月~日」に何が起きたかという、「点」としての出来事は、わかるんですよね。その間にあったであろうことを物語として描くというのがこのドラマの醍醐味だなと、三谷さんが書かれる脚本を読んでいて思いますね。