『エール』いま明かされる鉄男の空白期間 「学校一の悪童」が作詞家になるまで
裕一(窪田正孝)や久志(山崎育三郎)とともに「福島三羽ガラス」の名で親しまれた作詞家の村野鉄男(中村蒼)。「実家の魚屋が借金抱えて夜逃げしたんです。そのあとも、もういろいろあって、家族とは離ればなれになりました」。腕っぷしが強く「学校一の悪童」だった鉄男は、休み時間に古今和歌集を読む感受性豊かな少年だった。
母校の校歌を裕一とともに依頼され、故郷の土を踏んだ鉄男は後輩たちに語りかける。第9話で裕一と別れて第15話で再会するまで、鉄男の一家に何があったのか? 『エール』(NHK総合)第107話では、鉄男の語られなかった空白期間が明かされた。
「山奥の掘っ立て小屋で家族4人で暮らしてた」。父親の善治(山本浩司)は酒浸りになり、一家の生活は困窮を極めていた。ある日、弟の典男がいなくなってしまう。家出した典男を鉄男は必死に探しまわるが見つからず、そうしているうちに、母の村野富紀子(延増静美)から「あんたもここ出て行きな」と言われてしまう。
驚く鉄男少年に、富紀子は「あんたがいなくなってくれたら、食い扶持も減って助かる」と突き放す。「鉄男。あんたに家族はいねえ。自分の道、歩いて行け。二度と帰ってくんな」。そして鉄男は、藤堂(森山直太朗)からもらった新聞記者の名刺をたよりに山を下りた。
「家族はいねえって自分に言い聞かせて生きてきた。俺は冷てえ人間だ。弟は守れねえ。母ちゃんのこと捨てた。俺はどうしようもねえ人間だ」と鉄男。家族に捨てられたのなら、まだ救いがあるかもしれない。家族を捨てなくてはならなかったという後悔は、消えない傷となって、今でも鉄男の心の奥でうずいていた。
生活苦から子どもを奉公に出すなど、食い扶持を減らす話はこの時代あったと聞く。出す側も出される側も身を切られるように辛かっただろう。富紀子の言葉は冷たいようだが、里心がつかないように、また、我が子の才能を信じるがゆえの愛の鞭だったのではないか。幸い、鉄男は新聞記者として働きながら、裕一や久志と励まし合い、作詞家になるという夢を叶えた。
「荒んだ家に生まれて、貧乏で孤独で、苦労ばっかしてて、自分の境遇を恨んだ時もあったけど、そんなくじけそうな気持を支えてくれたのは、ここの学校で出会った人たちでした」。“ずぐだれ”になってしまいそうな時に、裕一や久志、藤堂は、そばにいて自分を信じてくれた。「大丈夫だ。おめえ、なかなか悪くねえ人生を送れっぞ」。かつての自分に語りかけるように言葉を紡ぐ鉄男の表情は、この上なく柔らかく優しかった。
■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログ/Twitter
■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)~11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/