中村蒼は“家族の詩”を完成できるのか? 『エール』鉄男が向き合うふるさとの記憶

『エール』鉄男が向き合うふるさとの記憶

 昭和26年、日本は復興期を迎え、人々の生活も豊かさを取り戻しつつあった。裕一(窪田正孝)たち家族は充実した毎日を送っている。そんな中、作詞家として大成した鉄男(中村蒼)は、自らの過去から「家族」を主題にした歌だけが書けずにいた。NHKの連続テレビ小説『エール』が第22週の初日を迎え、鉄男を演じる中村の繊細な心情描写と彼の周りの人々の優しさが印象的な回となった。

 華(古川琴音)は鉄男の幼少期を知らない。「ねえ、鉄男おじさんってどんな子どもだったの?」と聞く華に、裕一は鉄男がしょっちゅうけんかしていたことを話す。しかし「親に怒られなかった?」という問いに鉄男が言葉を濁したのを見て、裕一は唐突に話題を変えた。裕一は、彼が父親に殴られる姿や家族で夜逃げしたことを知っている。再会するまでの間に何があったのかは裕一も知らないが、話したがらない彼の心を汲んでのことだろう。

 杉山(加弥乃)から仕事を請けた鉄男だが、「家族の絆をテーマに主題歌の歌詞を書いてほしい」と言われた途端、彼の表情は曇る。彼の微妙な変化に気づいた杉山もまた、心配そうに鉄男を見つめていた。

 鉄男がラーメン屋を訪れると、智彦(奥野瑛太)と共に働くケン(松大航也)の姿があった。迎えに来た吟(松井玲奈)をケンは「母ちゃん」と呼んだ。家族となった彼らを見つめる鉄男の目は優しいが、どこか悲しげにも見える。そんな鉄男が吐いた小さなため息を池田(北村有起哉)は見逃さなかった。鉄男は「自分の中にないもんは書けない」と言い、まともな家族じゃない自分が、どう家族の絆を書けばいいのか分からないと打ち明ける。鉄男と境遇の似た池田は、裕一と自分たちの境遇の違いを口にしながらも、去り際に鉄男の肩をポンと叩くとこう励ました。

「でもさ……我々には想像力ってもんがあんだろ? 膨らませるのもしぼませるのもてめえ次第だ」

 鉄男は映画の主題歌の話を断った。裕一からの問いに「ここんとこ、ずっと忙しかったし」と言葉をぼかす姿から、鉄男がまだ過去を整理しきれていないことがわかる。けれど、彼の周りの人々が見せた優しさや言葉が、第22週で過去に向き合うことになる鉄男の心を支えることになるのは確かだ。「ふるさとに響く歌」がどのような歌になるのだろうか。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)~11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、中村蒼、山崎育三郎、森七菜、岡部大、薬師丸ひろ子ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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