『リズと青い鳥』『若おかみは小学生!』『ガルパン』……傑作を生み出す脚本家・吉田玲子とは
友人の誘いがきっかけでアニメライターへ
吉田玲子がアニメの脚本に関わるきっかけになったのは、小山高生が主催する「アニメシナリオハウス」を受講したことだった。その受講に誘ったのは吉田の友人だったそうで、その友人の誘いがなければ、今日、吉田がアニメの世界で活躍することはなかったのかもしれない。
主催の小山は、編著『だからアニメシナリオはやめられない』(映人社)で吉田について、「当時から吉田はコネクションさえ得れば、十分にプロとしてやっていける資質に恵まれていた」(P.107)と評している。
この『だからアニメシナリオはやめられない』はアニメシナリオハウス出身の脚本家たちのリレーエッセイが中心の本なのだが、吉田もエッセイを寄稿している。総勢34人の脚本家が仕事のつらさや続ける秘訣、上手くなるコツなど、若干の「先輩風」を吹かした文章を残している中、吉田だけはシナリオハウスに誘ってくれた友人への感謝と、尊敬する作家・桶谷顕氏への哀悼を表明し、「修行の日々はまだまだ終わりそうにありません」(P.106)と謙虚な文章を残している。
このエッセイは脚本ではないが、彼女の資質がよく現れているように思う。「シナリオライターはサービス業でもある」という小山の教えを吉田は紹介しているが、ささくれだった部分も斜に構えた部分もひとつもない。どこまでも正直で誠実で前向きで、シンプルだ。
その後、吉田は『ドラゴンボールZ』や『少年サンタの大冒険!』など数多くのTVアニメのシナリオに参加する。『ひみつのアッコちゃん』では細田守とも出会い、初期の細田作品になくてはならない存在となる。とりわけ『デジモンアドベンチャー』劇場版の2本は細田・吉田コンビにとって重要な仕事だったろう。幻となった細田版『ハウルの動く城』の脚本も吉田は脱稿していたと言われているが、もし実現していたら一体どんな作品になっていたのだろうか。
吉田玲子が『ガルパン』の脚本家に指名された理由
吉田の重要な仕事はいくつもあるのだが、ここでは特に近年重要と思われる作品から彼女の脚本家としてのセンスに注目してみたい。
吉田玲子と言えば、山田尚子作品や『たまゆら』『ARIA』などの、少女たちのささいな機微を繊細に取り上げる日常ドラマや児童作品で知られる一方、戦車で少女たちが戦う『ガールズ&パンツァー』の全話の脚本を手がけていたりもする。吉田自身はインタビューでも戦車に詳しくないことは語っているが、それではなぜ、『ガルパン』の脚本家に吉田が指名されたのだろうか。
それは、『ガルパン』制作陣がまさにそんな吉田のセンスを必要としたからだ。
考証・スーパーバイザーの鈴木貴昭は『ガルパン』アニメ化の経緯を振り返りこう語る。
ーーアニメ化するなら、こうしたほうがいいよっていうポイントはどこだったんですか。
鈴木:我々マニアだけで作ってはダメだってことですね。マニアが作ると薀蓄がメインになるので観ている人に優しくないんですよ。だから、脚本家さんはやっぱり、ちゃんとキャラもの、青春ものとして書ける人じゃないとダメだろうと。(「Continue Special」ガールズ&パンツァー 50ページ大特集P.47)
『ガルパン』の脚本会議は、軍議のように地図に戦車のプラモデルを乗せて、水島監督や鈴木が戦略を練るのを、吉田がメモしながら進めていたそうだが、玄人目線ではない吉田の視点でまとめられたからこそ、誰にでもわかりやすい作品になったのだろう。さらに、大量のキャラクターを、誰一人埋没させることなく、青春群像ドラマとして成立させた手腕は特筆ものだ。
ちなみに、水島努監督は『ガルパン』で、萌えに頼らない作品を目指していたそうだが、吉田が取材で戦車に乗った際、車内が蒸して熱いことを実感したため、試合後の入浴シーンを入れることを提案したそうだ。(「別冊Spoon vol.32」P.13)
「シナリオはサービス業でもある」の言葉通り、視聴者に対するサービスともとれる提案だが、同時にリアリティの確保にもつながっており、こうしたシーンの的確な選択にも吉田の仕事の質の高さが伺える。