少女の通過儀礼から無我の境地までも描く 『若おかみは小学生!』がもたらす極上の映画体験

『若おかみは小学生!』による極上の映画体験

 素晴らしい映画だ。快活で、情緒豊かで、含蓄がある。少女の通過儀礼というありふれた物語設定から、「森羅万象に神が宿る」とする神道的な精神性に加え、仏教の無我の境地まで描く離れ業をやってのけている。一流の職人たちの丁寧な技術も堪能できる、極上の映画体験である。

 内容に触れる前に一つだけ、本作を巡る、「この映画は子供向けか大人向けか」という議論について書いておきたい。

 結論から言うと、この映画は特定の年齢層に向けられた作品ではない。アニメーションが誰のための技術なのか、所詮子ども向けであり大人が観るものではないのではないか、という物言いは昔からあった。ウォルト・ディズニーはそれをくつがえすために『ファンタジア』を作って、アニメーションも芸術になれることを見せようとした。

 日本でも同様の問いは長いことあり続けたが、スタジオジブリはこの問いに真っ向から答えてみせた。宮崎駿は『天空の城ラピュタ』の企画書に以下のように記している。

「アニメーションはまずもって子供のものであり、真に子供のためのものは大人の鑑賞に充分たえうるものなのである」

 スタジオジブリはそれを実践し続け、実力でもってそのことを証明した。

 宮崎駿監督作品の多くで作画監督を務めた高坂希太郎が監督した『若おかみは小学生!』も、上記の宮崎駿の言葉を忠実に実践した作品だ。これは老若男女が楽しめる作品で、決して特定の年齢層だけに向けられたものではない。春の湯の温泉と同じだ。このアニメーション映画はだれも拒みはしない。

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