『グリンチ』はなぜシンプルな構成になったのか? 大人のための楽しみ方を指南

『グリンチ』大人のための楽しみ方を指南

 日本では、クリスマスは恋人たちのロマンスを演出するものとしての役割が定着してしまっているが、ヨーロッパやアメリカなどでは家族が集まり、また困窮する人たちに手を差し伸べることが、クリスマス精神だと教えている場合が多い。

 劇中に描かれるように、クリスマスツリーやプレゼントを奪われてなお人々がクリスマスを祝おうとするのは、その精神こそが大事だということが分かっているからだ。そして、そんな人々の姿を見ることや、シンディー・ルーの優しさを感じて改心するグリンチもまた、クリスマス精神を発揮する。そして、心を開いたグリンチを人々が受け入れることもまたクリスマス精神である。この善意のやりとりによって、世界はあたたかく暮らしやすい場所になっていくはずである。

 クリスマスは宗教的な行事ではあるが、人を思いやるという心を持つこと自体は、世界のどんな国でも通用する、尊い考え方だ。そのことを伝える作品は、何度作り直されようと意味がある。

 イルミネーション・エンターテインメントが、近年のディズニーやピクサーと違うのは、より子どもに向けた内容を提供してきたという部分だ。複雑な展開や新しい価値観を伝えるというよりは、直球で楽しませ、より分かりやすいメッセージを伝えようとする。その分、大人にとっては物足りなく感じる場合もあるかもしれない。しかし、このような大きな規模で、まっすぐな作品を作るということも、やはり必要であるはずなのだ。だから、大人の観客は童心に帰って純粋な気持ちで観るということが、本作の楽しみ方なのである。

 そして、イルミネーション作品には、やはりミニオンたちが欠かせない。同時上映の短編『ミニオンのミニミニ脱走』は、刑務所を舞台にしたドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』のパロディーがあったり、『手錠のままの脱獄』(1958年)、『網走番外地』(1965年)を部分的に想起させられる、裏切りや皮肉な展開が待っている脱獄劇である。このあたりの要素が、大人のエンジョイするポイントであろう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。

■公開情報
『グリンチ』
全国公開中
プロデューサー:クリス・メレダンドリ
監督:ヤーロウ・チェイニー、スコット・モシャー
声の出演:ベネディクト・カンバーバッチ
日本語吹替版声優:大泉洋、杏、秋山竜次(ロバート)、横溝菜帆、宮野真守
配給:東宝東和
(c)2018 UNIVERSAL STUDIOS
公式サイト:https://grinch.jp/

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