実話に鮮明さを与える土屋太鳳の“笑顔”の効能ーー『8年越しの花嫁 奇跡の実話』の演技に寄せて
こんなにも、文字どおりの“はじける笑顔”というものがほかにあるだろうか。映画、テレビ、CM、どの作品でも、土屋太鳳の笑顔を見るとそう思う。今年だけでも『PとJK』『兄に愛されすぎて困ってます』『トリガール!』で、ヒロインとして映画の顔として笑顔をふりまく彼女は、それぞれの画面に力強さを与えると同時に、わたしたちに元気をくれる。この、オールスターが集結した『64‐ロクヨン‐前編/後編』(2016)などの大作から、オリジナル企画の自主映画『菊とギロチン』(2018・夏公開予定)までを手がける瀬々敬久監督の職人的な手腕によって放たれた『8年越しの花嫁 奇跡の実話』でも、彼女の“笑顔”の力はきわめて大きい。
この映画での土屋は、あまり笑顔を見せない。かといって終始表情がくもっているというわけではもちろんなく、日本映画の元気印である、いつもの彼女と比べればの話である。そんな中でも印象的な笑顔を見せるのが、まず尚志(佐藤健)との出会いの場面だ。佐藤演じる「趣味、車いじり。仕事、車いじり」である寡黙な男・尚志は、同僚の誘いをうまく断ることができず、男女があつまる飲み会に不本意ながら参加することとなる。うかない表情で居心地悪そうに座る彼は、ちょうど反対側の、対角線上に座っている土屋演じる麻衣といっしゅん目が合う。しかし彼女は、彼に笑顔を送るどころか、その視線すらそっけなくそらしてしまう。嬉々と2次会へ移動をはじめる人々の中、彼だけがその場を離れるが、その背を、麻衣が追ってやってくる。驚く彼に向けた彼女の言い分は、「あんな態度はないだろう」、というもの。それに対して彼はドギマギしながら、お腹の具合が悪かったのだと誤解を解こうとする。合点がいった彼女はここでようやく、ビー玉のようにまんまるく光った目に、大きめで並びのいい歯をのぞかせて、満面の笑顔を見せるのだ。2人の恋がはじまるのにこれ以上の説明はいらない、それほどまでに輝いた“笑顔”である。
しかし、映画の出だしと同じく順調であったカップルの生活は、麻衣を突然襲った病によって一変する。当然ながら演じる土屋は“笑顔”を見せなくなる。彼女のシンボルともいえる“笑顔”を、見せることができなくなるのだ。眠り続ける彼女のそばに寄りそう、佐藤の献身の日々がはじまる。2人に課された1度目の試練である。
この2017年、佐藤は『亜人』で、土屋は『トリガール!』で、それぞれが類まれなる身体能力の高さを披露したばかりだが、ここでは2人の真逆ともいえる静かな演技に魅せられる。眠り続ける彼女と、寄り添い続ける彼の姿を、移ろいゆく季節とともに幻想的に捉えたワンシーンは、エモーショナルな音楽とあいまって、本作屈指の名場面でもある。
ついに麻衣は、奇跡的に意識を取り戻す。しかし彼女は尚志のことだけを覚えていない。当然、演じる土屋が佐藤に向ける表情は、“笑顔”とは言いがたいものとなる。時おり笑みを浮かべる瞬間があっても、それは両親や、見舞いにきた友人たちに対するものであって、尚志に向けたものではないのだ。2人に課された2度目の試練である。彼女はかつての記憶を取り戻そうと、ひとり車いすを走らせ、彼もまた、自分のことも結婚の約束も覚えていないという彼女のそばで、必死に耐えて待ち続ける。