『パトレイバー』新作読切『1997』たった5ページに凝縮されたゆうきまさみの凄みとは?

『パトレイバー1997』に見る名作の底力

 現在公開されている『機動警察パトレイバーEZY File2』。この新作に合わせ、週刊ビッグコミックスピリッツ 2026年38号に、ゆうきまさみによる新作『機動警察パトレイバー 1997』が掲載された。

わずか5ページに詰まった開幕前夜

 前回の『File1』公開時に掲載されたのは『機動警察パトレイバー 2026』。2026年の福島特車二課長の葬儀を舞台にした短編で、『EZY』の舞台は2030年台の東京ということになっているので、その少し前の物語だったということになる。対して、今回掲載された『1997』は、『パトレイバー』本編が始まる直前を舞台にした短編。1998年の特車二課第二小隊発足の直前を描いた作品となっている。

 本作の冒頭は、のちに後藤隊長となる後藤喜一警部補が特車二課の制服を受け取るところから始まる。特車二課の制服といえば、胴体部分がオレンジ色の派手なデザイン。もはや見慣れてしまっているが、お巡りさんの格好としてはけっこう奇抜である。まるで『ウルトラマン』の科特隊の制服のような衣装を見て、後藤がウンザリした表情を浮かべているのも納得だ。

 特車隊員養成学校の教官・佐久間が登場するのも嬉しい。さほど頻繁に登場したキャラクターではないものの、コミックやOVAではけっこう存在感のあったキャラクターであり、また第二小隊のメンバーが揃う前の話に教官である佐久間が出てくるのは自然だ(佐久間が出てくるから……というわけではないだろうが、この号のスピリッツにはゆうきまさみと佐久間宣之の対談も収録されている)。

 全5ページと短いながら、コミック版における第二小隊発足前の特車二課の様子がわかるのも本作の興味深い点。細かく入れられている季節感の描写によって「1997年の春頃から秋頃にかけての話である」ことがわかるようになっており、特に具体的に人材に目星がつき始めたのは10月ごろのようだ。本作の中でも第二小隊は速成教育の警官を集めたとされているが、それでも後藤隊長はそれなりに時間をかけて第二小隊のメンバーを集めたことがうかがえる。

 また、のちに第二小隊のメンバーとなる警察官たちのプロフィールを読んだ後藤のセリフも興味深い。本作の中に出てくるプロフィールの文章はとても褒められているとは言い難いものばかりだが、それを読んで後藤は「人材ってのはあるところにはあるもんですなぁ」と独り言を言っているのである。この時点で結果的にライトスタッフだった第二小隊メンバーの適性を見抜いているあたり、さすが後藤隊長だろう。

永きに渡り愛される『パトレイバー』世界の豊かさ

 もうひとつ書けば、作中での制服の扱いも丁寧だ。オレンジ色の派手な制服を見てウンザリしていた後藤は、第二小隊のメンバーを集めている間もあの制服に全く袖を通さず、自席の後ろのハンガーにかけっぱなしにして私服で行動している。しかし第二小隊メンバーにある程度目星がついたところで「楽しくなってきましたよー」と言いながらようやく制服を身につけるのである。

 思えばどの『パトレイバー』でも、当初から後藤隊長はおじさん臭く、それなのに特に文句も言わず最初からあの派手な制服を着ていた。第二小隊のメンバーに目星がつくにつれて制服に対する抵抗感が薄れていき、我々がこれまで見てきた『パトレイバー』ではスタート時から普通に着るようになっていた……という過程を、極めて短く圧縮して見せている。さすがベテラン、ゆうきまさみの構成力である。

 細かいところで言えば、1997年の梅雨前の時点では特車二課長は福島課長ではない人物が務めているところも興味深い。真面目一徹ゆえに後藤隊長の被害者のようなポジションに回らされるイメージが強い福島課長だが、この人もそれなりに急に特車二課に配属された人だったのかもしれない。

 と、たった5ページの短編ながら、細かく読めば読むほどに発見があるあたり、さすがゆうきまさみである。そして印象的なのが、「まだ『パトレイバー』には掘るところがあった」という点だ。新旧のOVA、劇場版二作、テレビ版、コミック版、小説、実写版、そのほかの番外編的作品などなど、特車二課を主題に据えた作品はこれまでに多数が作られてきた。個人的には「もうさすがに掘り返すところはないのではないか」と思っていたのが正直なところだし、主要メンバーを一新して『EZY』が作られたのも、これだけ第二小隊を主役に物語を作り続けたのだから、そりゃメンバーも入れ替えますよね……という納得があった。

 しかし今回、わずか5ページで描かれた「第二小隊が編成される前段階の話」は、ファンにとっては意外なほど興味深いものだったのではないだろうか。短いページ数の中に後藤隊長の慧眼や特車二課の人間関係、警察組織内での特車二課の立ち位置、派手な制服に対する扱いなどをみっちり詰め込み、読めば読むほど味のする内容に仕上がっている。この地味なネタでここまで情報量のあるコミックが仕上がるという点からは、『パトレイバー』という作品の豊かさを強く感じる。

 現在『File2』が公開されている『EZY』。来年の3月には『File3』の公開が予定されており、おそらくその際にはまたゆうきまさみによる新作が読めるのではないだろうか。次は豊穣な『パトレイバー』世界のどこを掘り返してくれるのか、今から楽しみである。

■書誌情報
『週刊ビッグコミックスピリッツ 2026年38号』
価格:1,150円
発売日:2026年8月17日
出版社:小学館

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