『HUNTER×HUNTER』は漫画ではなく、もはや小説なのか? 圧倒的な文字情報による表現を考える

「週刊少年ジャンプ」31号にて、約1年半ぶりの掲載再開となった冨樫義博の大ヒットコミック『HUNTER×HUNTER』(集英社)。物語は、さまざまな人物たちの野心や復讐心が複雑に絡み合う「王位継承編」が大きな山場を迎えているところだが、あまりの毎回の文字情報(セリフ、モノローグ、ナレーションなど)の多さに、「漫画ではなく、もはや小説」という意見も少なくない。
そこで本稿では、『HUNTER×HUNTER』という物語(あるいは、冨樫義博という“作家”)に最も適している表現ジャンルは、「漫画」なのか、あるいは「小説」なのかということを、あらためて考えてみたいと思う。
小説にシフトした場合のメリットは?
いきなり結論を述べると、『HUNTER×HUNTER』という物語は、やはり、漫画でしか表現できない作品なのだと私は思う。
たしかに、(そんなことはまず起きないとは思うが)仮に小説に切り替えた場合のメリットもなくはない。具体的にいえば、同作特有の複雑なゲームのルールや、「念」をはじめとする異能の解説、そして、頭脳戦や心理戦におけるキャラクターたちの内面描写などは、それなりに分量のある文字情報として読ませてほしいという一面もある(あらためていうまでもなく、原則的に、漫画の「コマ」や「フキダシ」には、長文のテキストを挿入するスペースがない。ゆえに、従来の漫画表現においては、長尺の会話劇は敬遠されていたわけだが、冨樫はあえて、描きたい物語のために、その“お約束”を無視している、といえなくもない)。
また、多くの読者はすでにご存じのことかと思うが、作者の体調の問題もある。『HUNTER×HUNTER』の掲載スタイルが、長期の休載を経て、現在のような不定期掲載にシフトしたのには当然理由があり、それは、作者・冨樫義博が重度の腰痛のリハビリ中(治療中?)だからだ。
なお、冨樫に限らず、腰痛は、(腱鞘炎などとともに)いまも昔も、漫画家たちを悩ませている“職業病”のひとつといえなくもないが、小説の執筆なら、もしかしたら、漫画を描く場合よりも肉体的な負担は減る、かもしれない(注・これはあくまでも私見である。「小説の執筆も、漫画の執筆と同じくらい腰を痛める」という意見もあるだろう)。
むろん、この場合、「冨樫義博に(漫画作品と同じクオリティの)小説が書けるのか」という別の問題も生じる。これについては、じっさいに読んでみないことにはなんともいえないが、これまでに彼が書いてきた漫画のセリフやト書きを見た限りでは、充分“文才”はあるように思える(あらためていうまでもなく、漫画とは、絵だけでなく、「文章」の表現でもあるのだ)。
そして、冨樫義博の“ストーリーテリング”の才能については、いまさらここで私が力説するまでもないだろう。
とはいえ、冨樫義博は“絵の作家”である
そのうえで、だ。私は、やはり、『HUNTER×HUNTER』は漫画でしか表現できない物語なのだと思う。なぜなら、いかに冨樫義博に文才があろうとも、彼は、本質的には“絵の作家”だからである。
たとえば、「王位継承編」でいえば、ツェリードニヒの守護霊獣が出現した場面(第362話)や、センリツが本気でフルートを演奏している場面(第383話)などを見られたい。いずれも、冨樫義博が文章ではなく、「絵」だけで、「恐怖」なり「音楽」なりを表現した「名場面」だということがわかるだろう(逆にいえば、これらの悪夢的ないし幻想的な場面を、小説でどう“再現”できるというのだろうか)。つまり、ここぞという場面では、冨樫義博は、文章の力に頼ることなく、絵の力だけで勝負しているのである。
もちろん、だからといって、冨樫が文章による表現を軽視しているというわけでもないだろう。繰り返しになるが、「漫画」とは、「絵と文字による表現」だからだ(たとえば、『HUNTER×HUNTER』0巻収録のQ&Aのページにて、「漫画を描く上で、映画に影響を受けている部分はありますか?」という質問に対し、冨樫は、「一番参考にしたのは字幕ですね。限られた字数でいかに簡潔に効果的にその状況に合った言葉を紡ぐか、という課題は、私にとっては構図やデッサン以上に重要なものでした」と答えている)。
『HUNTER×HUNTER』はあくまでも「漫画」である
いずれにせよ、『HUNTER×HUNTER』の場合、一見“文字だらけ”のページであったとしても、根底にあるのは、巧みな視線誘導とモンタージュ(コマ割り)のテクニックであり、それらもまた、「小説」ではなく、あくまでも「漫画」の表現の一部なのだ。
さらにいえば、現在の日本のエンタメ業界において、“いつ終わるとも知れない果てしない物語”を延々と描き続けられるような媒体を持った表現ジャンルは、「漫画」をおいて他にはないだろう(小説のジャンルにも、『グイン・サーガ』のような“例外”があることはあるが……)。
以上のような理由で、私はやはり、『HUNTER×HUNTER』という物語は、漫画でなければ表現できない作品なのだと考えているのである。
























