量として豊富なだけでなく、質としても最高のものが揃った2026年7月スタートの新作アニメ。そこから漫画なりライトノベルの原作を持って元の面白さとアニメならではの見どころを持った作品を選び並べてみた。
原作漫画通り。『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』の放送が始まって聞こえてきた声は、押井守や神山健治、黄瀬和哉に神山と組んだ荒牧伸志らが手がけてきた『攻殻』のアニメでは表現されていなかった、士郎正宗の絵柄とギャグなどの演出、そしてストーリーをそのままアニメにしてくれたというものだった。草薙素子が顔を赤くしたり、バトーが破顔して笑ったりと、押井版が敢えて外された要素を原作そのままに再現している。ルックだけなら北久保弘之がアニメパートを監督したプレイステーション版に近いが、こちらはストーリーもそのまま。だから、見て原作からのファンは嬉しいが、そうでない人でも複雑で深淵な展開に理解が及ぶのは、押井がテクノロジー、神山が社会について分かりやすく描いていたからでもある。初めてのようで37年分の蓄積の上に、新しい『攻殻』は圧巻の存在感を持つに至ったと言えるだろう。
トマトスープの漫画が原作の『天幕のジャードゥーガル』も、漫画そのままのルックを目指しつつ色彩や動き、そして音といったアニメに欠かせない表現を加えることで、漫画の世界に飛び込み、歴史を超えたような思いを抱かせてくれる。色彩はアニメならではのカラフルさがあり、どこかカートゥーン・サルーンの作品を思い起こさせるが、特にデフォルメされているとうことはない。歴史と文化という、間違いがあってはいけない部分を専門家を入れて考証したことで、世界から納得の声が起こる作品に仕上がった。チンギス・カンから続く征服の道程の苛烈さに戸惑うモンゴルの人もいるが、舞台が帝国内に移って皇子たちが助け合い、妃たちが張り合うドラマが描かれるようになれば、作者が見せたかったモンゴルの人々の当時の姿も伝わって、しっかりと向き合ってくれていると気づいてもらえるだろう。
とよ田みのるの漫画を原作にした『これ描いて死ね』も、絵柄はそのままに映像としての演出によって“魅せる”アニメになっている。伊豆大島に住んでいる漫画が大好きな安海相が1冊の漫画本に引きつけられ、作者がコミティアで久しぶりの新作を出すと知ってかけつけると、そこにいたのが相が通う高校でも厳しい指導をしてくる手島零だった。零が憧れの漫画家と知り、自分でも漫画を描いて零に見てもらうシーンが、アニメでは時間をつかってじっくりと描かれ、零の目に涙が浮かんで流れ出すまでの間の、湧き上がってくるマグマのような感嘆を見て取れる。心を引きつけられる演出力を持ったアニメだ。
石ノ森章太郎による漫画の原作はあっても、時代によって異なる社会の動きを取り込んで、物語を紡いできたのが『サイボーグ009』のアニメだ。最新作として配信が始まった『サイボーグ009 メネシス』も、009こと島村ジョーを中心に、様々な力を持ったサイボーグたちが悪と戦うという基本的なフォーマットを保ちつつ、ゼロゼロナンバーのサイボーグと対になる新しいサイボーグたちを登場させ、悪を駆逐するためには麻薬の材料集めにかり出されている少女であっても、あるいは無関係の民間人であっても殺して当然という考えを持たせてジョーたちと対峙させる。優しい正義と苛烈な正義の二者択一なんてできるのかという問いに自分なりの答えを探しつつ、対になるナンバーのサイボーグ同士が戦うスリリングな展開を楽しめる。長い経験を持ったゼロゼロナンバーサイボーグの強さも含めて。
池田祐輝の漫画『サンダー3』の初手の展開に読者が抱いた驚きを、アニメから観る人も味わいたいだろうと考えるなら、どうなるのかは具体的に書かない方が良いだろう。言えることは、3DCGのアニメを数多く手がけてきた瀬下寛之が、総監督を務め監督の井出恵介と共に漫画に描かれている世界を、とても良く再現してくれているということだ。違うルックの共存を成立させつつそれぞれをしっかり動かし、アニメならではのアクションを楽しませてくれる。なにより主人公の妹のふたばが、蜜蜂ほのかの声も含めて可愛すぎる。世界がズレる驚きの後も、ふたばを追う戦いに主人公たちと共にのめりこまずにいられない。
京都アニメーションの技術力とアレンジ力が、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』や『境界の彼方』などのように発揮されたのが、『二十世紀電氣目録-ユーレカ・エヴリカ-』だ。自社のライトノベルレーベル「KAエスマ文庫」から刊行した結城弘の小説が原作だが、電気の天才たちが早世して電気の発達が遅れた世界に舞台を改変。蒸気が主流の世界で世界を改変するような電気の使い方が記された「電氣目録」をめぐるアクションと、ボーイ・ミーツ・ガールの物語が繰り広げられる。注目は背景美術。カンバスに描かれた印象派の絵画のようなラフなタッチの背景にして、現実とも現在とも違った”明滋”末期の京都をそこに浮かび上がらせる。小説と違うだけに結末も見えないオリジナリティで最後まで興味を引きつけそう。
ライトノベルが原作のアニメでは、アマラの小説を原作に、大熊まいが添えたキャラクターのイラストを原案として佐々木泉がコミカライズをしている『猫と竜』が、ほっこりとする作品として内外で人気になっている。猫が赤ん坊といっしょに産み残されていた竜の卵もいっしょに温めたら孵ってしまい、竜も子猫もいっしょに育てたところ、竜が猫を守る存在になってくれた。ところが、母親猫は召喚されて魔法使いの少女アンネロッサの使い魔に。そうして始まった猫と人間の物語が、他の猫でも始まって、それぞれに優しい交流の物語を紡いでいく。竜の声が子安武人でママにゃんが井上喜久子と声優陣も豪華。身ひとつで城を飛び出し冒険者になった王子と旅する、速水奨のイケボがたまらない黒猫もいて、愛らしさの中に強さを感じさせて猫への興味を増していく。犬派の人も猫派に傾かせる楽しさだ。
心の中の優しさと疚しさを刺激して止まないのが、『透明な夜に駆ける君と、目に見えない恋をした。』だ。原作は止馬なにがしのライトノベル。大学生の空野かけるは新勧コンパで冬月小春という目が見えない少女と知り合う。その後、何かと出会う機会が増える中で、目が見えなくても普通に振る舞う小春をかけるはすごいと思いつつ、そんな小春をサポートすることに恥ずかしさを覚えてしまう自分を疚しく思うような複雑な心境を抱く。大前良時の漫画を原作にしたアニメ『映画 聲の形』では、耳が聞こえずうまく話せない少女をいじめた過去を持つ少年が、その少女との再会を経てお互いに前に足を踏み出す物語だった。同情や憐憫といった一方通行の関係ではなく、それぞれに認め合って生きていく道を、『映画 聲の形』と同じ入野自由と早野沙織のコンビで見せてくれそうだ。
ハンディキャップを持った少女に対して抱くべき感情について考えさせるアニメがもう1作。蒼木スピカの漫画が原作の『乙女怪獣キャラメリゼ』には、感情がたかぶると体の一部が怪獣になってしまう赤石黒絵という女子高生が登場。体質もあってあまり目立とうとはしていなかったが、クラスでもイケメンの南新汰に関心を抱き、向こうからも好意をもたれることで嬉しい時間を過ごせるようになるが、感情が動いて怪獣になって新太を気味悪がらせたりしないかといった不安にも苛まれる。本当の自分を知ってそれでも受け入れてもらえるのか。逆に怪獣化がコスプレなどではなく本当のことだと知ってなお好意を持ち続けられるのか。そんな真摯なテーマを経て結ばれるまでで終わらず怪獣たちの激突にまで進むらいい展開を、美麗なラブシーンと迫力のバトルシーンを楽しめるアニメで描き続けていって欲しい。
良心を振り切って紹介せざるを得ないのが『ヤニねこ』だ。アパートの汚れた部屋で暮らしていて、時々働く時以外はタバコを吸って吸って吸いまくる主人公がいて、タバコのようでタバコじゃない何かを吸ったり、寝たままストローで酒を吸い続けたりする仲間たちがいて、普通なら背徳過ぎて目を背けたくなるところを、そろって女子で猫という好意のベクトルを吸い取る容姿で登場して目を奪い続ける。にゃんにゃんファクトリーの原作漫画よりリアルな美術が増した嫌悪感を、猫たちの動きと喋りが和らげる。糖衣で包んだ毒薬が、ネットを介して世界に伝わり『ジャードゥーガル』が高めた日本のアニメへの評判にどう影響するのか。怖さ半分楽しさ半分。そんな思いを抱かせてくれる問題作だ。
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。
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