『黄金仮面の王』(河出文庫)が3刷重版決定 「地上の大火」一篇全文を公開

『黄金仮面の王』が3刷重版決定

 3月6日(金)に発売したマルセル・シュオッブによる『黄金仮面の王』(河出書房新社)の3刷重版が決定した。

 “知る人ぞ知る”幻想文学の巨匠、マルセル・シュオッブ。シュオッブ初の文庫オリジナル傑作選『黄金仮面の王』(河出文庫)が、2026年3月の発売直後から大きな反響を呼び、早くも重版3刷が決定。澁澤龍彦、江戸川乱歩、倉橋由美子、ボルヘス、ボラーニョ……錚々たる作家に多大な影響を与えながらも、これまで広く読まれる機会の限られていた「幻想文学最深奥の短篇作家」。

 『黄金仮面の王』には、新訳5編を含む全22編を収録。古今東西の歴史・神話・芸術・哲学への驚異的博識によって創り上げられた、どこか不穏な気配をたたえた硬質で緻密な幻想世界が描かれている。

西崎憲による新訳「地上の大火」一篇全文が公開。

「地上の大火」冒頭より

これまで世界を導いてきた信仰が最後の力を振り絞ったが、ついに立て直すことはできなかった。新たな預言者が登場しては無為に消えていった。人の意志の謎は無理矢理解き明かされたが、それも無意味だった。もうそれは重要ではなかったのだ。意志というものが世界からなくなりかけていたのだから。あらゆる生き物の活力がいま尽きようとしていた。未来の宗教を作るための全身全霊の努力も実を結ぶことはなく、人は自己本位の感覚のうちに安穏として埋没した。情動の噴出はいかなるものでも認められた。世界は微温のうちに止まり、凪がつづいた。巨大な毒草の無自覚さで悪徳が蔓延(はびこ)った。背徳が法となって事物を治め、偶然が生を司る神となった。科学は迷信的信仰によって蒙(くら)くなり、偽善的な心性や感覚が触腕となってそれに仕えた。嵐とまがう雨の日々のうちにかつては明確だった四季は溶けた。明確なものはなにもなかった。伝統もなかった。ただ遺物の陳腐な混淆があり、曖昧さの王国があった……(続きはWeb河出で公開中)

目次
地上の大火      西崎憲訳*
黄金仮面の王     多田智満子訳
キャプテン・キッド  大濱甫訳
卵物語        多田智満子訳
未来のテロ      大濱甫訳
エンペドクレス    大濱甫訳
バーク、ヘアー両氏  大濱甫訳
ペスト        多田智満子訳
顔無し        大濱甫訳
眠れる都       西崎憲訳*
ウォルター・ケネディ 大濱甫訳
木の星        大濱甫訳
〇八一号列車     西崎憲訳*
贋顔団        垂野創一郎訳*
パオロ・ウッチェㇽロ 大濱甫訳
青い国        大濱甫訳
運命を背負った娘   大濱甫訳
リリス        多田智満子訳
阿片の扉       多田智満子訳
ベアトリス      大濱甫訳
擬曲         大濱甫訳
平底船の少女        西崎憲訳*
解説 絢爛たる死物     西崎憲
*=新訳

著者
マルセル・シュオッブ
1867年フランス生まれ。歴史、神話、芸術への博識に拠る硬質で緻密な幻想的作風で、ボルヘス、江戸川乱歩、澁澤龍彦ら後の作家に多大な影響を与えた〈象徴主義世代の中で最も優れた短篇作家〉。1905年没。

訳者
大濱甫 オオハマハジメ
フランス文学者。一九二五年静岡県生まれ。著書に『イシス幻想』、翻訳にシュオブ『架空の伝記』『小児十字軍』『モネルの書』『黄金仮面の王』、リラダン『残酷物語』など。二〇一二年没。

多田智満子 タダチマコ
詩人・随筆家・翻訳家。一九三〇年福岡県生まれ。詩集に『長い川のある國』、エッセイに『鏡のテオーリア』、訳書にシュオッブ『少年十字軍』、ユルスナール『ハドリアヌス帝の回想』など。二〇〇三年没。

垂野創一郎 タルノソウイチロウ
翻訳家。一九五八年香川県生まれ。訳書に《オーストリア綺想小説コレクション》全三巻、マイリンク『ワルプルギスの夜』、ペルッツ『テュルリュパン』、ボルヘス/フェラーリ『記憶の図書館』など。

西崎憲 ニシザキケン
作家・翻訳家。一九五五年青森県生まれ。著書に『未知の鳥類がやってくるまで』『本の幽霊』、編訳にコッパード『郵便局と蛇』、編著に「十二か月の本」シリーズ、編集に《惑星と口笛ブックス》《ブンゲイデリバリ》など。

■書誌情報
『黄金仮面の王』
著者:マルセル・シュオッブ
訳者:大濱甫/多田智満子/垂野創一郎/西崎憲
価格:1,430円(税込)
発売日:2026年3月6日
重版出来日:2026年4月6日(3刷)
出版社:河出書房新社
レーベル:河出文庫

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