思春期のイライラ、脳の仕組みは? ベストセラー『13歳からのメンタルヘルスの教科書』がすごい

2月19日のAmazon売れ筋ランキングで69位に入っていたのが、『13歳からのメンタルヘルスの教科書 自分の「こころ」に会いにいく』(ダイヤモンド社)である。著者のカーラ・ビーンは、アメリカの中学校で美術を教える教師。教育者として10代の若者を数多く見てきた知見も踏まえ、最新の脳科学をもとにコミック仕立てで脳と身体の仕組みについて解説した本だ。
タイトルには「13歳からの〜」とあるが、実際のところこの本は、13歳以上の人間なら誰が読んでも面白く読めるように作られている。イラストはユーモラスで語り口も柔らかいが、内容はなかなか真剣そのもの。メンタル面のトラブルについて、そもそもの脳の仕組みからアプローチして段階的に解説している。
感情を科学的に分析する
本書は9つのチャプターに分かれており、まずひとつめのチャプターで「スティグマ」について扱う。偏見や差別の無意味さを説き、「落ち込んだり感情の調子が悪い時に、人を頼ったり自分の不完全さを認めるのは全く悪いことではない」「相談される側は、相手の気持ちに寄り添った言葉を選ぼう」というポイントを解説する。一定年齢以上になれば、「メンタルの不調があった時に、病院やカウンセリングに行くのは不自然なことではない」と理解している人が多いだろうが、この本はタイトルの通り13歳の子供に向けて書かれている。根本的な偏見を一旦脇に置いて、フラットな気持ちで読んでほしいという解説をいれるあたりから、本当にティーンエイジャーと接してきた著者が描いているんだな……という感触がある。
偏見を脇に置いたところで、本書はまず脳の仕組みについての解説から始まる。後脳、大脳辺縁系、大脳皮質といった脳の部位ごとの役割について説明し、さらにチャプターが進むごとに「なぜ脳から感情が生まれるのか」「感情の発生にはどのような物質や条件が作用しているのか」「ムシャクシャしたり、ネガティブな感情にとらわれてしまうのはなぜか」といったトピックが順を追って説明される。
大人が読んでもためになるのは、脳の機能や外的な要因によって、気持ちが落ち込んだりストレスを受けたりした際の対処法が具体的に書かれていることだろう。最近よく聞くマインドフルネスについても、イラストを交えることで具体的にどうしたらマインドフルネスな状態になっていると言えるのかが分かりやすく説明されており、自分はこの本を読むことでようやく「そういうことか〜」と納得できた。
10代の脳の「アンバランスさ」を解き明かす
後半では心身をめぐるトラブルについての原因の解説、そして具体的な解決策へと話が進む。薬物をはじめとするさまざまなものへの依存の仕組み、うつとはどういう状態なのかの解説、そして自殺を考えてしまった時の対処法など、実際に10代が巻き込まれることもありうるハードなトラブルについて、原因と対策が書かれている。これらのトラブルについては、大人だってもちろん他人事ではない。特に「自分がしんどくなくても、自分の親しい人がメンタルヘルスの問題で苦しんでいる時にはどうしたらいいか」にまで気を配って解説されているので、今のところ特に精神的不調を抱えていない人にとっても有益だ。
読んでみて特に「なるほど!」と思ったのは、10代の脳について解説されている点だ。本書によれば、感情を司る大脳辺縁系は、思考を担当する前頭前野より先に成長する。つまり感情の変化は大人並みなのに、衝動を抑えて冷静に考える部位が育っていない状態なのだ。さらに大脳辺縁系に属する扁桃体では攻撃性や衝動に関わるテストステロンの受容体が作られるため、イライラしたり攻撃的になったりしやすい。おまけに10代の脳は大人よりも普段のドーパミンの量が少ないために退屈を抱えがちで、さらに同じ刺激でも大人よりもドーパミンの分泌量が多いため、すぐに興奮してさらに強い刺激を求めるのである。
このあたりの解説を読んで、自分が10代だったころに感じていたあの苛立ちや鬱屈、そして本や映画に触れた時にすぐ感動し、さらに似たようなものを掘り返したくなる強い衝動の謎が解けたような気がした。あの苛立ちも、知らないものに触れた時の強い感情の変化にも、全部に理由があったのである。同時に、中年にさしかかった今は同じようなものを見てもなんだか落ち着いた反応しか出てこないことの理由もわかったように思う。感性が死んだのではなく、前頭前野が成長しきってしまったのだ(ちなみに本書によれば、前頭前野が完成して人間の思考能力が固まるのは20代なかばだそうである)。
いまの10代も、かつて10代だった人も救われる
自分自身の脳の変化はかなり穏やかになってしまったが、自分にはもうじき4歳になる子供がいる。子供は最近目に見えて脳の性能がアップしており、自分でできることがめきめきと増えてきた。何もトラブルがなければ、この子も近い将来には10代になり、いわゆる「難しい年頃」になることだろう。
そうなった時には、本書に書いてあったことを思い出してみたい。「難しい」のは本人のせいではなく、脳の部位ごとの発達速度に差があり、分泌される物質のバランスがガタガタだからなのである。大雑把でも原因さえ把握できていれば、親としての対処にも多少は差が出てくるのではないか。いやまあ、そうは言っても多分普通に子供にイライラさせられたり、ケンカしたりするんでしょうけども……。
ということで、まず本書はタイトル通り今まさに10代の人々が読むのにうってつけだろう。自分の脳と感情に何が起きているのか、それが原因で引き起こされるトラブルにどう対処したらいいのかが具体的かつ健全に書かれているので、まずはこの本を読めば間違いなさそうである。
と同時に、かつて10代だった人々にとっても、しっかり有益なのは間違いない。社会で巻き込まれる理不尽、そしてそれによって引き起こされる精神的トラブルについては、10代だろうがそれより年上だろうが関係がない。そして子供のいる人にとっても、脳の変化によって引き起こされるトラブルへの対処法をまとめた本として「使える」内容になっているはず。なにしろ脳と感情の問題は全年齢の全人類についてまわる。そんな問題に対する細心かつ普遍的な解説&トラブルシューティングの実用書として、幅広い人に向けて開かれた一冊である。
■書誌情報
『13歳からのメンタルヘルスの教科書 自分の「こころ」に会いにいく』
著者:カーラ・ビーン
価格:2,200円
発売日:2026年2月18日
出版社:ダイヤモンド社
























