永瀬廉×吉川愛の実写映画控える「鬼の花嫁」にアニメ化した「宝石商リチャード」……嵯峨景子注目のライト文芸新刊5選

「鬼の花嫁」ほか注目のライト文芸新刊

 『少女小説を知るための100冊』や『少女小説とSF』などの著作で知られる書評家の嵯峨景子が、近作の中から今読むべき注目のライト文芸をピックアップしてご紹介する連載企画。今回はTVアニメ化もされた人気シリーズ完結巻から年間ベストにも挙がった連作短編集まで、5タイトルをセレクト。

辻村七子『宝石商リチャード氏の謎鑑定 比翼のマグル・ガル』(集英社オレンジ文庫)

 TVアニメ化もされた大人気シリーズが、10年の時をかけて完結。

 大学時代に宝石商のリチャードと出会った中田正義は、アルバイトとして彼の店「ジュエリー・エトランジェ」を手伝うようになり、卒業後は秘書として仕事を支えている。宝石をめぐるジュエル・ミステリーとしてスタートした物語は、第二部で舞台を世界に広げ、より壮大な人間ドラマを展開。そして第三部では、正義の異母弟・みのるが登場し、中学生の視点からリチャードと正義の関係が照らされていく。

 最終巻では、正義とみのるの父親の死や、正義が巻き込まれた事故など、波乱万丈な展開が続く。とりわけ印象的なのは正義が入院した病院の場面で、取り乱したリチャードの姿を美化することなく描く筆者のフェアな姿勢に、より一層信頼を深めた。これまでは曖昧にされてきた二人の関係にも決着がつけられ、周囲を取り巻くキャラクターも取りこぼされることはなく、読後感は爽やかで明るい。「大切な人たちとの関わりも絶たずに、自分を大事にして生きよう」という正義の言葉は、今後の自分の人生の指針となるだろう。勇気と希望をもらえたラストだった。

 シリーズは完結したが、今後も新短編集が予定されているなど、正義とリチャードの物語はまだまだ続く。これで終わりではないという喜びを噛みしめつつ、新刊を待ちたい。

吉川トリコ『コメディ映画で泣くきみと』(ポプラ文庫)

 2025年に読んだ連作短編集の中でもベスト1に挙げたい、エネルギッシュでミラーボールのようなきらめきに満ちた一冊。

 母や妻という役割から逃れ、自分でいられる場所を作るために仲間を集めてチアダンスを始めた主婦。16歳になる直前に自分が在日韓国人だと初めて知らされた姉妹。ゲイであるという秘密を抱えた高校生。不妊治療をしても流産が続き、養子を迎え入れた女性。学校でプロムを開催しようと文芸部を乗っ取り、活動を始めた女子高校生――。さまざまな人の姿を通じて苛立ちや怒り、そしてやるせなさなど、ままならない毎日が鮮やかに綴られる。

 個人的に一番惹かれたのが、突如自分のルーツを突き付けられた姉妹の妹側のストーリー。帰化申請が間に合わなかった笑未は、高校の修学旅行に行くことができず、心に傷を負ったまま大人になった。コリアンカルチャーに親しむ姉の初未とは異なり、笑未は韓国にまつわるすべてを拒否したまま、今は高校教師として働いている。アイデンティティをめぐる葛藤や、今もなお根深く残る在日コリアンへの差別、文芸部の顧問として若い世代に接する姿など、複雑な感情を抱えた笑未はなんとも愛おしいキャラクターである。作中には実在の映画やドラマが多数登場し、鑑賞欲もそそられる。ポップで軽やかな読み心地の中に、現代的かつ切実なイシューを織り込んだ、あなたのための物語だ。

佐々木禎子『とりぷるばーば 水曜日のかれーらいす』(PHP文芸文庫)

 『ばんぱいやのパフェ屋さん』などを手掛ける著者が贈る、ハートフルごはんストーリー。

 札幌で居酒屋「おーちゃん」を営む桃子は、一年前に夫を亡くして以来、お店を閉めて今後について悩んでいた。そんな彼女の元に、中学時代からの友人の百合と澄子が現れる。二人は桃子を励まし、彼女の家で同居をしながら休業したお店を再開して手伝うことになった。安くておいしいごはんを提供する「おーちゃん」には、子どもから90代の老人までさまざまなお客が訪れる。67歳と年齢を重ねた三人は、それぞれの人生経験を生かして困っている人の心に寄り添い、手を差し伸べていくのであった。

 三人のおばあちゃんが切り盛りする居酒屋「おーちゃん」とともに描かれるのは、ローカルなスーパーで近年は大型チェーンに押されぎみな「まるふじストア」で働く人々の姿。がん治療の副作用に苦しみながらパートを続ける主婦や、痴呆が進みつつある91歳の元社長など、作中にはさまざまな悩みを抱えた人々が登場する。そんな来訪者たちを、パワフルで少しおせっかいな「おーちゃん」の三人は、絶妙のチームワークと思いやりで受け止める。冷たいカレーライスやホッケのフライなど、気取らない料理の数々も食欲をそそる。元気なおばあちゃんたちの姿はきっと、読者にもポジティブなエネルギーとパワーを分けてくれるだろう。

六つ花えいこ『かくして魔法使いノイ・ガレネーは100年後、花嫁となったIII』(メディアワークス文庫)

 『死に戻りの魔法学校生活を、元恋人とプロローグから (※ただし好感度はゼロ)』シリーズが人気の作者が手掛けるラブストーリー。

 国一番の魔法使いと名高いノイは、魔王を宿す少年の監視を命じられた。ノイは少年への非人間的な扱いに憤り、彼を「カルディア」と名付け弟子として受け入れて愛情を注ぐ。心を閉ざした少年は少しずつ心を開いていくが、ある日ついにカルディアの中の魔王は目覚め、ノイは命を賭した魔法で魔王を浄化し消滅した。そして百年後、二人は再び巡り合う。だがノイは力をすべて失ったうえに少女の姿に戻っており、自分が師匠だと明かさないまま、胡散臭い優男に育ったカルディアと暮らし始めるのだが……。

 かつては強い信頼関係で結ばれていた二人が、それぞれ秘密を抱えながらすれ違うじれじれの恋模様が魅力の本作。シリーズの完結巻となる第3弾ではついにノイの正体が明かされ、魔王も無事退治されるが、そこからさらに一波乱が生まれる。両片思いが存分に味わえる展開にぜひ身もだえしてほしい。魔王を退治するバトルシーンも緊迫感にあふれ、思いがけない解決方法を見出したノイとカルディアの共闘も楽しめる。美しい風景描写と繊細な文体が魅力のファンタジーは切なく甘やかで、とびきり幸せな読後感を残す。極上のロマンスを味わいたい人におすすめのシリーズだ。

クレハ『鬼の花嫁 新婚編五~天狗からの求婚~』(スターツ出版文庫)

 シリーズ累計650万部を突破し、永瀬廉×吉川愛主演での実写映画化と、TVアニメ化も決定するなど、大ブレイク中の和風ファンタジーの最新刊。

 人間とあやかしが共生する日本では、絶大な権力を持つあやかしの花嫁に選ばれるのは名誉なことであり、少女たちの憧れの的となっている。平凡な高校生の柚子は、妖狐の花嫁になった妹と比較され、家族の中で虐げられながら育った。だがある日、彼女の前にあやかしの頂点に立つ鬼の一族の一人が現れる。鬼龍院家の次期当主の玲夜は柚子を花嫁に選び、彼女の運命は大きく動き出すのだが――。

 『鬼の花嫁 新婚編五~天狗からの求婚~』では、玲夜のライバルとなる天狗のあやかしが登場。天狗と鬼の間には昔から花嫁にまつわる因縁があり、鬼の花嫁である柚子も両者の対立に否応なく巻き込まれていく。本作の大きな見どころである玲夜の柚子への溺愛は、二人の関係をかき乱す恋敵の出現によってますます加速。鬼がみせる強い執着と全身全霊の愛情はとびきり重くて甘い。

 一方の柚子も、自分が玲夜の唯一の弱みだと自覚しつつも、ただ守られるだけの存在ではいたくないと己の道を模索。玲夜のおかげで少しずつ強さを手に入れている柚子の変化にも注目したい。天狗が巻き起こした波乱はまだまだ続き、今後の展開にも期待が高まる。

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