「猫のふわふわが大好き」猫夫婦に癒される漫画『小さなお茶会』47年ぶり復刊 作者に聞く“幸せ”の描き方

猫十字社氏の漫画『小さなお茶会』は、1978年から少女漫画誌「花とゆめ」で連載が始まった作品である。“ぷりん”と“もっぷ”という猫の夫婦が紡ぐ物語は、メルヘンチックな作風が評判となり、当時の少女漫画ファンから高い支持を集めた。
今年で連載開始から47年を迎えた『小さなお茶会』の単行本が、満を持して宝島社より復刊された。復刊をきっかけに新たなファンを獲得するだけでなく、当時の読者だった親から紹介され、二世代でファンになった人もいるという。
現在、尾道の猫の横丁@長江CUBEで「猫十字社『小さなお茶会』マンガ超原画展」が開催されている。当時の原画が前期・後期にわたって500点以上展示されるという圧巻のボリュームだ。今回は猫十字社氏にインタビューを実施し、『小さなお茶会』誕生のきっかけから創作への思い、連載中のエピソードまでを深掘りした。

【試し読み】猫のもふもふに癒される『小さなお茶会』がかわいすぎ
当時の私に描けるものを振り絞った漫画

――まずは、『小さなお茶会』を描こうと思ったきっかけから教えてください。
猫十字社:突然、編集部から連載のお話をいただいて、頭のなかにあるアイデアをまとめて漫画にしたのが『小さなお茶会』でした。ですから、描きたいと思ってずっと温めていた作品ではなかったんですよ(笑)。
いただいたページ数は4ページで、ほかの連載作品よりも少ないものでした。そのせいか、担当さんは一切内容に口出しをせず、「何を描いてもいい」という雰囲気でした。そんな環境のなかで、当時の私に描けるものが『小さなお茶会』だったといえます。
――すごいですね。しかしながら、アイデアがあっても漫画にするために膨らませるのは大変だったのではないでしょうか。
猫十字社:何しろずいぶん前のことですので、アイデアを膨らませるのにどれだけ時間をかけたのかまでは覚えていませんが、とにかく担当さんが何もおっしゃらなかったことは記憶に残っています。あと、私はペンネームに“猫”と使うほどの猫好きで、友達と遊びながら猫の絵を描くことはよくありました。ただ、このような形で漫画にするとは思ってもいませんでしたね。
白土三平の『カムイ伝』にのめり込む
――先生が漫画家を志した原点はなんですか。
猫十字社:子どもの頃から漫画は楽しく読んでいたのですが、そのうち「どうやったらこんな漫画を描けるんだろう」と考えるようになったのが、漫画家を志した原点だと思います。 当時は漫画家になるために何をすればいいのか、学校などで教えてくれるシステムはありませんでした。そんな私の教科書になったのが、中学2年のときに友達が貸してくれた石ノ森章太郎(注:当時は石森章太郎)先生の『マンガ家入門』です。この本を読んで漫画家になった人は、本当に多いと思いますよ。
そして、熱心に読んでいたのは白土三平先生の『カムイ伝』ですね。やはり友達が全巻貸してくれて、初恋の人がカムイになってしまったほど大好きな作品でした。白土先生の漫画は一通り読んだと思います。

――『カムイ伝』と『小さなお茶会』は作風がまったく異なりますね(笑)。
猫十字社:いえ、私が八頭身の絵を描いていた頃の作風を見ると、白土先生が好きだとわかっていただけると思いますよ(笑)。ただ、『小さなお茶会』の絵柄に関しては、特に影響を受けた作家さんはいないかもしれませんね。
むしろ、私は猫や兎のふわふわした毛並みがたまらなく好きで、“触りたくなるような質感”を感じられる絵を描きたいと思っていました。その思いを形にしたのが『小さなお茶会』です。とにかく、子どもの頃からふわふわしたものが好きだったんですよ。
ふわふわした質感を描きたい
――先生の猫好き、ふわふわ好きは筋金入りなのですね。
猫十字社:2~3歳の頃、近所の家で見たふわふわのピンクの毛が付いた爪掛のある下駄が気に入ってしまい、勝手に履いてきて母から叱られたほどでした。半世紀ほど経ってから、母が「あのとき叱るんじゃなくて、買ってあげればよかった」と言っていましたが(笑)。
今でもその下駄のことは、色も形も鮮明に覚えています。子ども心に、どうしても欲しかったのでしょうね。

――ふわふわへのこだわりはもちろんですが、『小さなお茶会』は日常の物語を丁寧に描写しているのも特徴です。
猫十字社:私が目指したのは、読んだ人が幸せになったり、ちょっと元気になったりする漫画です。そのためには、子どもたちにどんな言葉を使えばうまく伝わるか、思いが届くかと、セリフの言い回しをじっくり考えながらネームを作っていました。
ネームは早いときは一瞬でできましたが、できないときは本当に大変で、七転八倒でしたね。ネタに困ったときは音楽を聴いて、そこから発想を得ることもありました。描き進めていると、物語の世界が現実のように思える瞬間があります。作品世界の時間の流れに自分が没入し、憑依できれば“創作脳”が一気に開くんです。逆に、そうならないと、なかなか思うようにアイデアが出てこないんですよね。
――キャラクターづくりで大切にしていることは何でしょうか。
猫十字社:“ぷりん”と“もっぷ”の性格は、自分と、自分の身近にいた人たちが元になっています。あとは、自分の心のなかのいちばん優しい部分とか、人に優しくなれる部分を取り出して、キャラクターの性格に投影しました。
私は実際にはそんなに優しい人間ではないのですが(笑)、それでも優しさは誰の心のなかにもあると思います。そんな優しさを、作中では恥ずかしげもなく出していきましたね。結婚相手の面白いと思った性格や、いいなと思った要素も盛り込んで描かせていただいたと思います。
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復刊を機に当時の努力を振り返る
――今回の『小さなお茶会』の復刊にあたり、どのような思いを抱きましたか。
猫十字社:なんだか夢みたいな、ありがたいお話をいただいたと思っています。嬉しすぎて、今でも本当かなと思うくらいです。単行本のデザインもきれいで、ページをめくってみると「当時の自分も頑張っていたなあ」と振り返ることができました(笑)。
復刊された単行本のカバーを外すと表紙が現れます。表紙デザインは作中のワンシーンをデザイナーさんがチョイスしてくださったものなのですが、「この場面を選んでくれたんだ」と思うと嬉しいですね。当時、懸命に描いたことが報われた気がしました。
――復刊と今回の原画展を通じて、当時とは違う世代の読者からも反響があったのではないですか。
猫十字社:最初に原画展が開かれたとき、一番目にいらした方が娘さんを連れたご家族でした。お子さんも『小さなお茶会』が好きだと言ってくれたのが嬉しかったですね。
――開催中の尾道での原画展では、500点以上の原画が展示されます。
猫十字社:並んだ原稿を見ると、本当によくやったなあと思います。狂ったように描いていたんだなと(笑)。締切に追われて、下絵をさっと描いて45分で仕上げたページもありますし、連載をしていた頃の出来事が懐かしくよみがえってきますね。
創作に対する意欲は健在
――連載中の印象的なエピソードはありますか。
猫十字社:『小さなお茶会』のときではなかったと思うのですが、こんなエピソードがあります。私の母は製図が得意で、丸ペンを使ってすごくきれいな細い線が引ける人でした。漫画の枠線を引いてくれたことがあったのですが、傍らにあったカルピスを原稿に倒してしまったことがあったんですよ(笑)。
――それは大惨事ですね。飲み物を原稿にこぼしてしまうのは漫画家あるあるといいますか…。
猫十字社:あと、「幻獣の國」の時ですが、コーヒーを原稿に「ブッ!」と吹いてしまったことがあります。そのページは物語の見せ場だったので、髪の毛をつやつやに丁寧に描いていたんですよ。そしたら、アシスタントの会話を聞いて、うっかり吹き出してしまったんです。そのページは、アシスタントがホワイトできれいに直してくれましたけれどね(笑)。
――アシスタントさん、いい仕事をしていますね。さて、復刊・原画展を経て、先生の作 品に注目が集まるなか、今後挑戦してみたいテーマや新たな表現はありますか。
猫十字社:私はもう体力的に弱っているので、新たな漫画を描くのは難しいかなと思っています。でも、エッセイやイラストカット、漫画のネームを作るような形での創作ならできると思っています。途中で描けなくなってしまった話の続きも、考えてみたいですね。
私が生まれた長野県の飯田市に「飯田市美術博物館」があります。その近くに詩人・日夏耿之介さんが住んでいた家があるのですが、うさぎが日夏さんの家に住んでいて、ふらふら飲みに行く物語とか……。漫画のネームがベースになった“ネーム小説”のような形で、絵を想像しながら読める文章は、書いてみたいと思っています。
【試し読み】猫のもふもふに癒される『小さなお茶会』がかわいすぎ
■原画展情報
■原画展情報
「猫十字社『小さなお茶会』マンガ超原画展」
後期:11月20日(木)まで(好評により会期延長予定)
※現在後期のみ開催中。前期とは展示を入れ替え。
会期中無休
会場:長江CUBE 33言動 & classroom(広島県尾道市)
入場料:大人(中学生以上)1500円
小人(小学生)700円/未就学児無料
主催:長江CUBE
■書誌情報
『このマンガがすごい!comics 愛蔵版 小さなお茶会』上・中・下
著者:猫十字社
本体価格:3,000~3,300円(+税) 宝島社刊
























