FANTASTICS・木村慧人はなぜ人を“mu chu”にさせるのか? 『君がトクベツ』で魅せた“心を掌握する動き”

木村慧人、人を“mu chu”にさせる理由

木村慧人に“mu chu”になるための新たな画面を創出

 『ヒロイン失格』(2010)などのヒット作がある幸田もも子による最新作『君がトクベツ』のドラマ化作品(MBS、毎週水曜深夜放送中)に出演する木村慧人を“mu chu”で見てしまう。木村が所属するLDHのダンス&ボーカルグループ「FANTASTICS」の大先輩である「EXILE」の名曲タイトル「Ki・mi・ni・mu・chu」と本作ドラマタイトルを思わず重ねてみたくもなるのだが、本作では木村慧人に夢中になる工夫が随所に凝らされている。

 まず初登場場面。定食屋で働く主人公・若梅さほ子(畑芽育)と出会う国民的ダンス&ボーカルグループ「LiKE LEGEND」(通称、ライクレ)のリーダーである桐ヶ谷皇太(大橋和也)が、メンバーたちを緊急招集する。皇太は誰もが自分を好きになると思っている。ところが、極度のイケメン嫌いのさほ子だけは全く興味を示さなかった。そのことをメンバーたちに相談するためだ。ビデオ通話が繋がる。画面上方に通話画面が小さく表示され、左端に木村演じる遊馬叶翔がいる。

 メンバーたちが適当な意見を述べる中、なぜか腕立て伏せをしている叶翔が「そういう問題か」とクールにツッコミを入れる。腕立て伏せを終えるとおもむろに通話画面に顔を近づける。まばたきをする。目元までかかる前髪がピクピク動く。腕立て伏せの上下運動から前髪の微動まで、夢中になって目で追ってしまう。通話画面上に等間隔で差し込むような演技がリズミカルで、通常の横型画面よりむしろ縦型フレーム内の方が、彼の演技は引き立つのかもしれない。これは発見だ。本作は木村慧人に“mu chu”になるための新たな画面を創出している。

フレーム内フレームをうまく利用

 第2話には皇太と叶翔が二人で通話する場面がある。今度は縦型の通話画面が並ぶのではなく、ドラマ画面自体を分割。タブレットを掌にのせて通話する叶翔が上手に映る。先ほどの縦型画面にすっかり慣れてしまったせいか、(二分割した)横型画面に写る姿がやけに立体的に感じられるのは気のせいか。本作ではこうしたフレーム内フレームをうまく利用することで、木村と視聴者との遠近感を調整している。

 原作の叶翔はインサート的に初出する。ライクレのDVDを見るようになったさほ子が「黒髪の人がちょっと気になって!!」と答える場面で一コマの片隅に描き込まれていた。叶翔の黒髪の質感。目元までかかるかどうか絶妙な長さの前髪。きらりと輝く全体像。原作と比較してはっかりわかる。木村は、一コマのフレーム内に描かれたビジュアル情報を自動計算するかのように再現している。

 叶翔は撮影現場の場面から本格的に登場する。控え室で二人きりになったさほ子に対して、叶翔が「よーし仲良くしよっか」といきなりバックハグ。初対面なのに大胆なスキンシップで接してくる。さほ子は「ライクレの距離感」がバグっていることにあわあわする。ドラマではスキンシップはやや控えめ。あくまで身体的距離を担保することで逆に心の繋がりを浮き彫りにする演出意図があるのだろう。ビデオ通話画面を駆使したフレーム内フレームという演出もまた木村の心情表現をアシストしている。

山中柔太朗とのMBSドラマ再共演で磨きがかかる

 原作の叶翔が本格登場する場面の舞台は、さほ子が通う高校に置かれているが、ドラマでは第3話の回想場面として設定されている。皇太のために弁当を届けにきたさほ子に叶翔の距離感が発動。「可愛いねさほ子ちゃんは」と言って、少し緊張ぎみのさほ子をからかう。叶翔は、両腕を交互に突き出してさほ子の頭に触ろうとする。相手の心を掌握する動きは、バスケットボールの試合で敵のシュートを防御するカウンターのようだ。

 さほ子が払いのける隙をつき、差し込む両腕がリズミカルに躍動する。これは「FANTASTICS」のパフォーマーである木村ならではの身体能力がなせる技だろう。木村は、原作のキャラクターが実写化作品の登場人物として立ち上がる案配を心得ているように思う。黒髪が魅力的なビジュアルを単に再現するだけではなく、演じる俳優本人の身体的特性が役にリアリティを生む。そうやって生身のキャラクターが動きだす。

 ライクレのメンバーの一人、クール天使キャラを担う来栖晴をダンス&ボーカルグループ「M!LK」の山中柔太朗が演じていることも奏功している。MBSドラマ『恋と弾丸』(2022)で共演した木村と山中は、夏目イサクによる原作漫画を実写化したW主演BLドラマ『飴色パラドックス』(MBS、2023)で再共演。ダンス&ボーカルグループのメンバーである俳優同士、愛すべきでこぼこコンビ(“かぶおの”コンビ)を演じた。『ホームレス中学生』(2008)などの青春映画の名手・古厩智之監督が演出する第1話の居酒屋場面では、週刊誌の記者である尾上聡(木村慧人)の左耳にカメラマンの蕪木元治(山中柔太朗)が息を吹きかけるスローモーションの名場面がある。逆にさほ子をからかう叶翔は、彼女の右耳に甘い声を吹き込んでいた。相手からおちょくられる側だった役から、相手をからかい、夢中にさせる側になる。山中とのMBSドラマ再共演で、木村の演技は磨きがかかる。

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