岩田剛典、なぜロングヘアーに? 『DOCTOR PRICE』で魅せた“色気”を考察

岩田剛典、なぜロングヘアーに?

俳優活動ではロングヘアーが基本フォーマットに?

 福田雄一監督最新作『新解釈・幕末伝』のキャスト情報解禁がクイズ形式になっていた。作品公式X上で登場キャラクターの顔から下だけ写るメインビジュアルがポストされ、これは誰が演じるんだろうと想像が膨らんだ。その中に刀の柄の頭に左手を置き、右手を添え、長い髪の先がなだらかにたれるビジュアル。すぐに誰だかわかった。投稿のリプライ欄には「岩ちゃん」と愛称が並ぶ。同作では凄腕の剣士を演じる岩田剛典だ。

 熱心な岩田剛典ファンなら、柔らかな手元を見たら一目瞭然。そして長い髪のビジュアルというのもまたサービス問題だった。最近の岩田の俳優活動ではどうやら、ロングヘアーが基本フォーマットになっているらしい。現在放送中の主演ドラマ『DOCTOR PRICE』(日本テレビ系)では医師専門の転職エージェントである鳴木金成役を演じ、上述した剣士とビジュアルが近似値のロングヘアーがまず目を引く。岩田本人は現場移動中の車内に行ったCL(LDHコンテンツのデジタルコミュニケーションサービス)のLIVE CAST配信(8月4日)で「皆さん、この髪型にも慣れてきたんじゃない?」と問いかけていた。

 本作第1話時点ではまだ少し見慣れない気もしたが、確かにもうそろそろ慣れた。でも待てよ、原作漫画の鳴木金成はどんな雰囲気で、描き込まれたビジュアルを100%再現した上でのあのロングヘアーなのか? 逆津ツカサによる原作漫画の1ページ目を慌ててめくってみる…。縦長ワイドの1コマ目に描かれている鳴木はなかなか嫌らしい目付きながら、後ろで結んだロングヘアーが色っぽい。なるほど、岩田は役作りとして、このそこはかとない嫌らしさに絶妙な柔らかさを掛けわせて、ふわっとクールなキャラクタービジュアルに仕上げているのだ。

原作とドラマの画面をアングルで比較

 1コマ目からあざやかなロングヘアーがさらりと靡くように描き込まれる一方で、もう一つ画面上をスイングする重要な要素が導入部にある。先にドラマの場面を見てみる。第1話冒頭、新米医師の葛葉圭佑(阿部顕嵐)がパワハラ准教授・馬場秀平(濱津隆之)から暴行されている。そこへ颯爽と現れるのが、極東大学病院で小児科医として勤務していた金成。掃除用モップを手に彼はどうしたか。モップを野球のバットに見立て、馬場めがけてスイング。ダイレクトヒットした馬場は、ゴミ箱の方へ飛ばされる。

 金成はしなやかなモップを構えたまま「うん、スイングは鈍ってない」と言う。原作を読んでいない段階でこの冒頭場面を見ると、何でモップなのか、何で野球のフォームなのか少し謎。もしかして元野球選手なの?とキャラクターの裏設定を想像するのだが、上述した原作漫画の1コマ目をみるとわかる。「将来はプロ野球選手か医師になるよ」と金成最初の台詞がある。どうやらドラフト指名まで受けていたらしいが、生涯年収を天秤にかけて医学の道を選んだ。

 あっけらかんとしてロジカルでスマートなキャラクターとして設定されているこの役を演じる上で、岩田はロングヘアーのビジュアル要素を固めつつ、しなやかなモップのスイング感一つでキャラを躍動させる。さらにこの場面で注目すべきは、快刀乱麻、見事なバッティングを披露した後の台詞。「もっと稼げる方法を見つけたんだ」とどこかうつつの表情を浮かべる。原作の「もっと稼げる方法を思いつたんだ」から少し書き換えられているが、明確に違うのはアングルだ。原作のローアングルに対してドラマではハイアングルの画面が選択されている。原作のコマとドラマの画面をアングルで比較すると、本作の岩田の演技がうまく読み解ける。

緩急の演技でコメディリリーフとしての完成形を目指す

 映像は映像作品として原作の表現性から独立すべきであり、本作からは原作のローアングルをハイアングルにする意図をはっきり感じる。1月期に放送された岩田主演ドラマ『フォレスト』(朝日放送テレビ、テレビ朝日)第6話の俯瞰ショットを除けば、基本的にどの出演作でも岩田の演技が際立つのはローアングルの画面である。この法則を踏まえるなら、『DOCTOR PRICE』でも原作に忠実にローアングルを選択すれば、ベストな画面は手堅く抽出できる。でも本作ではどうしてハイアングルを選んだか?

 その理由としてロングヘアーであることがからんでくる。極限、ロングヘアーの岩田剛典をよりベターに引き立たせるためには、ハイハングルを選択しなくていけない! しかもハイハングルは、福田作品初出演であり、岩田がロングヘアーのキャラクターを演じた原点ともいえる『新解釈・三國志』(2020)と連動している。趙雲役の初登場場面で底抜けにナルシストなキャラを炸裂させ、ぬっとり持続する間合いの台詞「モテる上に」中、どこか上方を見つめた。表情は少し緩和されているが、金成とほとんど同じ見つめ方だった。ただし、上を向く趙雲役を写す画面アングルはローでもハイでもない。目線に合わせている。

 金成を捉えるハイアングルは、趙雲役と連動、共鳴しながら、そこからさらにロングヘアーの岩田が上を向く視線を大胆に引っ張りあげ、持続させるという試みであり、いわば原点的作品に対する回答みたいなアングル選択だと考えてみた。同作から『新解釈・幕末伝』まで全4作の福田作品で岩田は必ずロングヘアー役を演じてきた。その過程で福田監督特有のギャグセンスがコメディ俳優としての才能を引き出したことは特筆すべきで、『DOCTOR PRICE』では医療業界の闇を暴くシリアスなドラマ展開ながら、どこかコメディリリーフ的な役回りを演じている。

 本作の緊張感を緩める要素として、紅茶の好みにうるさい金成が笑いを誘う。例えば、消化器内科医の転職を描く第2話の打ち合わせ場面。原作ではどこかホテルの広いカフェの内観全体をまず捉え、金成がマイペースに紅茶を楽しむくだりは描かれていない。一方、ドラマでは一口目を楽しむ金成の口元から始まり、束の間、ゆったりコミカルな時間が流れる。あるいは第5話。原作の第5巻に登場する総合内科医・巻原の転職回では、自分だけは「ラプサンスーチョン」にすると言い張る金成の頑なさが可笑しい。元恋人役の珍道中が抱腹絶倒だった『ウェディング・ハイ』(2022)では「今後こういう役を演じることはないと思います(笑)」と語っていた岩田だが、主演ドラマ『DOCTOR PRICE』では、シリアスな中にコミカルな緩急をつける演技でコメディリリーフとしての完成形を目指している。

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