映画『プラダを着た悪魔』のモデルとなった「ヴォーグ」編集長が交代 その背景は「革新」か「保守」か?

ヴォーグ編集長交代「革新」か「保守」か?

 世界20カ国以上で発行されているファッション誌「ヴォーグ」のアメリカ版が人事を発表した。映画『プラダを着た悪魔』のモデルであり、ファッションジャーナリズムの象徴であるアナ・ウィンターが編集長を交代。後任にクロエ・マレが就任することが決定した。海外メディアは、ヴォーグを擁する世界最大手のマスメディア企業『コンデナスト』の構造改革の一環であり、アナ体制の“第二章”の始まりとして捉えているようだ。

■編集長の肩書きが廃止

 今回注目すべきは、肩書の変化である。従来の「Editor-in-Chief(編集長)」が廃止され、アメリカ版でも他国と同様に「Head of Editorial Content(編集責任者)」が置かれる形となった。事実上、アメリカ版編集長という名称がなくなったわけだが、アナ・ウィンターは退任せず、引き続きコンデナスト全体のチーフ・コンテンツ・オフィサー(CCO)兼ヴォーググローバル・エディトリアル・ディレクターを務める。つまり、アメリカ版の現場をマレが運営しつつ、最終的な方向性やブランド戦略はアナが実験を握るというのが大方の見方だ。AP通信やBBCでは「アナは依然としてトップ」と指摘。実権が手放されたわけではないことを報じている。

 後任のクロエ・マレは、1985年生まれの39歳。ブラウン大学を卒業後、「ニューヨーク・オブザーバー」でキャリアをスタート。ヴォーグにはフリーランスとして関わり、入社後はVogue.com編集長を務め、社内ポッドキャストを立ち上げるなど、デジタル戦略で評価されてきた人物だ。加えて「ニューヨーク・タイムズ」や「ウォールストリート・ジャーナル」へ寄稿するなど、表層的なトレンド分析だけではなく、マーケットやビジネス的側面から論じることができる強みを持ち合わせる。クロエ・マレは、『さよなら子供たち』や『死刑代のエレベーター』で知られる映画監督のルイ・マルと女優のカンディス・バーゲンの娘としてもフォーカスされるなど、華やかな家系や人脈にも注目が集まっている。

 今回の「ヴォーグ」の人事は、「ヴァニティ・フェア」といった有力誌の「編集長」の再定義と重なる。雑誌=スター編集長が誌面を独自色で牽引する時代から、グローバルで各国の現場に権限を分散する「ネットワーク型」への移行が活発になっている動きの一環でもあるだろう。過去の雑誌の象徴性を受け継ぎながら、いかに新しい体制でファンコミュニティを形成していくのか、編集責任者の腕の見せ所でもある。

 今回の交代はアナ時代の終焉ではない。むしろアナ・ウィンターが築いたブランドを、どう持続し多角的にマネタイズしていくのかを熟慮した上での人事と言えるのではないか。クロエ・マレがデジタル時代の感覚で現場を動かし、アナが全体の舵取りを担う。スピード感とブランド力をどう両立させるのか、ファッション誌全体の動向にも影響を与えることになるだろう。

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