海外で「日本アニメの文法」に注目、国際的コンテンツ産業のメインストリームへ「世界観が独特で新鮮」

海外で「日本アニメの文法」に注目

 日本アニメの、海外での市場拡大が続いている。Financial Timesの記事「Is Japanese anime the next global IP gold mine?」によれば、日本アニメは国際的なコンテンツ産業においてニッチからメインストリームへと移行しつつあるとされる。市場規模は2023年時点で312億ドル。2030年には600億ドルを超える規模に拡大する見通しだという。

 この変化には、海外でのアニメ配信大手「Crunchyroll」をめぐる動きも関係している。ソニーはCrunchyrollを2021年に買収。2025年3月までに有料会員数が1700万人を超えている。ソニーはこのアニメ市場において、ゲーム、グッズ、イベントとIPを融合させた戦略を展開することが、同じくFinancial Timesの記事によって報じられている。

 こういった市場の拡大を受けて、アメリカを中心に日本アニメに対する注目度が従来より高まっているようだ。わかりやすい例では、10月から日本でもアニメ版が放送予定の『Let's play クエストだらけのマイライフ』がある。これは北米で高い人気を持つWEBコミックを原作とした作品で、舞台もアメリカのロサンゼルス。ゲームクリエイターを夢見る女性が、三人の男性と急接近したことで、迷いながらも人生を歩もうとしていく姿を描く。本作は日本でも放送されるが、Crunchyrollでの配信も前提としており、海外向けの作品も多く手掛けるOLMがアニメーション制作を手掛ける。「海外の原作に日本アニメの文法が掛け合わされ、国際的に展開される」という手法の典型例と言っていいだろう。

 Netflixにて配信され好評を博した『サイバーパンク:エッジランナーズ』の続編制作発表も、そういった動きのひとつだろう。本作の原作はCD Projekt RED開発によるポーランドのゲーム『サイバーパンク2077』。2022年にはアニメ版として、日本のアニメスタジオであるTRIGGERが制作した『エッジランナーズ』がNetflixにて配信された。こちらも「海外の原作に日本アニメのテイストを掛け合わせた作品」ということになる。また続編も同じくTRIGGERの制作となることが発表されており、同じ座組で続編が制作されることそのものが、アメリカの配信大手におけるアニメ作品の好調を物語っている。

 他にもMLBが2025年3月の新シーズン開幕に合わせてアニメ『ゲームの英雄』を公開したり、9月には『鬼滅の刃』映画新作が海外でも大規模公開されたりと、今年に入ってからだけでもアメリカを中心にアニメ作品への関心の高まりを感じるニュースは多い。特に注目したいのが、『Let's play』や『サイバーパンク』のように「海外製の原作に日本アニメのテイスト・文法を持ち込み、全世界で配信する」というビジネスモデルである。

 こういった作品にまとまった出資があり、実際に制作されているという事実は、日本のアニメのテイストがすでに海外でも広く支持されるものになっているという点を示している。「ディズニー的な予定調和のハッピーエンドにならず、予想を裏切る展開がある」「絵の形式や色彩、世界観が独特で欧米の視聴者にとって新鮮である」「長期にわたるストーリー展開により、長いスパンでのキャラクターの起伏や成長を通して人間的な感情を描くことができ、共感を得やすい」といった日本の漫画・アニメの特徴は、欧米でも広く報道されてきた。

 あらゆる作品を視聴者がフラットに見られる現在の配信環境においては、日本のアニメはドメスティックな存在ではなく、こういった特徴にマニア以外の広い範囲の視聴者が触れることができるようになっている。現在では海外の視聴者が日本製アニメ独特のテイストに対して感じる違和感も弱まり、特徴と魅力がストレートに伝わっているのではないだろうか。Crunchyrollの好調は、そういった状況を端的に表すもののように思う。もはや日本のアニメ視聴者層と海外のアニメ視聴者層を区分けすることには、たいした意味がないのだろう。

 気になるのは、こういった動きによって日本のスタジオが「外貨」を稼ぐことができるのかである。『Let's play』などの例では日本のスタジオへと制作のオファーが申し込まれることになったが、現在のネット環境を考えれば日本のアニメ独特なものだと思われていたテイストや要素は、あらゆる部分が解析され、模倣されうると思っていい。そうなったときに日本のスタジオがいつまで「日本的なアニメの供給源」として地位を保っていられるかは未知数だ。

 また、全世界を相手にアニメを配信する場合、どうしても莫大なユーザー数を抱える海外のプラットフォームに頼らざるを得ないという問題もある。現時点でも利益の多くが中間業者やプラットフォームに流れてしまう点は問題視されており、Financial Timesの報道によればスタジオへの還元は利益のうち10%未満という数字である。この状況を以下にして改善し、海外のアニメ人気をいかにして日本のスタジオが利用するかは考えどころである。

 いずれにせよ、日本のアニメの持つ特徴が海外で本格的に「発見」され、文化の混合が進みそうな点は歓迎したい。この動きからどのような新しい作品が生まれてくるか、楽しみである。

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