『誰が勇者を殺したか』シリーズで脚光! 最注目ラノベ作家・駄犬に聞く、斬新な作品群の創作背景

『誰が勇者を殺したか』駄犬インタビュー

魅力的なキャラクター造形

『モンスターの肉を食っていたら王位に就いた件 5』(GCN文庫)

――マリアは性格が最高で本当に人気です。他の面々も含めてキャラクターの造形がうまいのが駄犬先生の特長ですが、何か秘訣があるのでしょうか。

駄犬:造形はもう本当に物語の上の配役でしかないです。物語がこういう構成だから、こういう人がいて、こういう人もいるといった感じ。マリアに関しては、最初に戦士のレオンを書いたんですけど、そのままではあまりに暗い話になりそうだったので、面白い人間を入れようとしてマリアをああいう性格にしました。マリアというキャラは『モン肉』にも出てきますが、どちらも自分は好きですね。願望に忠実なキャラ、それを表に出せるキャラが好きです。

――キャラが強烈であればあるほどストーリーも面白くなります。

駄犬:やはり物語が動かなくては読んでいても退屈してしまいます。何もなければ物語が平坦なものになってしまうので、その辺を動かしてくれるキャラクターは意識して頻繁に入れるようにしています。意図を超えて暴走してしまわないかといった心配もありますが、勝手に動いてくれる方が書いていて楽で良いですね。『モン肉』ではヤンキー漫画を参考にしてキャラを作っています。

――ファンタジー世界なのにキャラはヤンキー漫画というのは意外でした。

駄犬:『カメレオン』とか『エリートヤンキー三郎』とか、そういった成り上がり系のヤンキー漫画を読んでました。弟がそっち系だったのでヤンキー漫画をいっぱい持っていたんです。自分はそれほど大好きだったという訳ではなかったんですが、読んでいて安定した面白さがあって好きになりました。また、『モン肉』は映画の『ファイト・クラブ』(1999年)がベースになっているんです。

――デヴィット・フィンチャー監督の映画で、エドワード・ノートンが演じる真面目な会社員が、刺激的な日常を求めてブラッド・ピットが演じるタイラー・ダーデンと知り合い、殴り合うことで鬱憤を晴らしていたらそれが格闘イベントのようなものに発展していく話ですね。

駄犬:『モン肉』は、もともとはああいった荒っぽい人たちが登場する話だったんです。ハンドレッドのオグマがタイラー・ダーデンで、もっと話の中心になるかと思っていたらマルスの方が中心になって、後はマルスばかりといった感じです。『モン肉』は第5巻が出てまだしばらく続く予定ですので楽しみにしていてください。

『追放された商人は金の力で世界を救う』 (PASH!文庫)

――『追放された商人』は勇者パーティーから不要だと追放された人間が実は優秀だったといった”追放もの”のファンタジーですが、主人公のトラオが追放されて当然の性格だったり、追放自体に意味があったりと意外性がありました。

駄犬:追放系というライトノベルが「小説家になろう」などで流行っていて、作品も多く書かれていますが、自分としてはそのフォーマットに納得していないところがあったんです。ひとつは追放する側の考えが甘過ぎるのではないかといったもので、どうして追放する相手の才能に気づかないんだろうと思っていました。追放される側にもされるに足りる理由があった方が良いのではということもあります。あと、追放された後にうまく結末に着地している感じがしなくて納得がいかなものが多かったので、自分では最後に落ち着くところに落ち着いて納得のいくものを書こうとしました。

『悪の令嬢と十二の瞳 ~最強従者たちと伝説の悪女、人生二度目の華麗なる無双録~ 』(オーバーラップノベルス)

――追放されるトラオは金に汚くてパーティーの金を勝手に使い込んでいました。ただそれにも理由があって、追放した側にも思っていることがあって、それらがラストでカチッとハマるところが最高でした。『悪の令嬢と十二の瞳』は悪女だからと処刑されて過去に戻ったセリーナ・ローゼンバーグが、やり直しの人生でもやっぱり悪を貫こうとするところが斬新でした。

駄犬:悪役令嬢ものはたいてい、転生なりした悪役令嬢が良い人間になって運命から逃れようとする話になります。これが悪のままでも良いのではといった発想が浮かんで、そこに映画の『フルメタル・ジャケット』(1987年)を掛け合わせてああいった感じの作品にしました。『死霊魔術の容疑者』 (GCノベルズ)の場合は『ユージュアル・サスペクツ』(1995年)を自分でもやってみたいと思って、ファンタジーなら時間軸を思い切りずらすことが可能なので、ファンタジー設定を使って物語を作りました。

――セリーナが6人の従者を鍛え上げる展開がハートマン軍曹による猛特訓ということですね。ここまで伺っていると、映画や漫画といったさまざまな作品の影響を受けつつ、オリジナルの物語やアイデアを載せて作品を作り出すことが多いように見えます。

駄犬:今までに自分が見てきた作品や面白いと思った作品を、自分でもやってみようとして、どのように物語に落とし込むのかを考えるところはあります。ただ、似ているかというと全然似ていませんから、そこは自分が書きたい話を書いています。

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