『誰が勇者を殺したか』シリーズで脚光! 最注目ラノベ作家・駄犬に聞く、斬新な作品群の創作背景

『誰が勇者を殺したか』駄犬インタビュー

『誰が勇者を殺したか』(角川スニーカー文庫)シリーズが累計で30万部を突破し、小説投稿サイト「小説家になろう」で発表した作品は軒並み書籍化、作品のコミカライズも続々と進むなど、ただいま人気沸騰中の作家が駄犬だ。5月30日には『誰が勇者を殺したか 勇者の章』、7月22日には『モンスターの肉を食っていたら王位に就いた件 5』(GCN文庫)、25日には最新刊『カナンの城 ~亡国の王女と世界の秘宝、それを巡る最強盗賊団と覇権国家の大活劇~』(オーバーラップノベルス)も出て勢いは増すばかり。そんな駄犬に創作の秘密や作品にこめた意図、そしてこれからの展開を聞いた。

(メイン画像=『誰が勇者を殺したか 勇者の章』(KADOKAWA スニーカー文庫刊)より/©駄犬/イラスト:toi8)

「完結させてから投稿する」執筆のスタイル

『カナンの城 ~亡国の王女と世界の秘宝、それをめぐる最強盗賊団と覇権国家の大活劇~』(オーバーラップノベルス)

――最新刊となる『カナンの城 ~亡国の王女と世界の秘宝、それをめぐる最強盗賊団と覇権国家の大活劇~』は、亡国の王女をさらってしまった3人の悪者たちが、あたふたしながら王女を守り帝国に立ち向かっていく冒険活劇です。どこから着想した物語ですか。

駄犬:『ルパン三世 カリオストロの城』です。小学生の頃に図書館が貸し出しているビデオで『カリオストロの城』を観て、それがすごく面白くて大好きになりました。何回も何回も見返す作品になっていて、巨大な城にお姫さまが囚われていてそれを助けに向かうという話を、いつか自分でも書いてみたいなと思ってました。自分にとって冒険活劇が作風に合っているのか分からないので、読者の方の反応が気になるところですが、ライトノベルが好きな人も『カリオストロの城』が好きな人も面白がれる小説になっていると、自分では思っています。

――亡国のお姫さまを盗賊たちが救うという話を嫌いな人なんていません。この『カナンの城』が「小説家になろう」で発表されたのは2024年5月で、駄犬先生はすでに『誰が勇者を殺したか』や『モンスターの肉を食っていたら王位に就いた件』で書籍デビューしていました。引き続きWebで公開したことに理由はあるのでしょうか。

駄犬:その頃はまだ、発表していたもの以外は特に新しいオファーがなかったので、自分で好きなことを書こうと思って書いたものを出しました。すぐにオーバーラップで担当していただいていた編集の方が読んで、書籍化を編集長にかけあってくれたそうです。

――『悪の令嬢と十二の瞳 ~最強従者たちと伝説の悪女、人生二度目の華麗なる無双録~ 』(オーバーラップノベルス)と同じ版元ですね。連載ではなく完結した作品が一挙掲載されていたので評価もしやすかったでしょう。こうした一挙掲載は小説投稿サイトでは珍しいですよね。

駄犬:自分以外にはあまり聞いたことがないですね。長期連載を前提として、毎日少しずつ書いてくスタイルが多いみたいですが、自分としては、物語は最後まで書いた方が面白くなると思っているんです。最後の方で考えついたアイデアを最初に戻って入れ直すことができるので、クオリティが高いものを出せるということがありますし、何より読者の方に一気に最後まで読んでもらえます。実は『モン肉』は連載形式で週に1編ずつ投稿していったんですが、まったく反応がなかったんです。完結した時にひとつだけレビューを戴いてやる気が出て次を書いたんですが、その時に得た教訓が「完結していないと読まれないらしい」ということでした。それ以来、とりあえず完結させてから投稿するようになりました。このやり方は、すべての投稿者の方に勧めるものではありません。自分に合った方法で書いていくのが良いと思います。

――小説投稿サイトで作品を発表する前は新人賞への応募のようなことは行っていたのでしょうか。

駄犬:15年くらい前に仕事で単身赴任のような時期があって、時間がいっぱいあったので書いて出したことがあります。ライトノベルの新人賞ですね。内容はあまり覚えていませんが、確かコメディで、プリキュアのような正義のチームと戦っている悪の組織が、どうやって相手を倒すのかを考えるような話だったと思います。悪の組織が彼女たちの正体を撮影して、ネットに投稿されたくなかったら言うことをきけと脅すような話。1次選考にも残らず、自分に小説家は向いていないんだと思って、その後は書かなくなりました。「小説家になろう」が出てきて、載っている作品を読むようになって、こういうものなら自分も書けるかもしれないと思ってまた書き始めました。

――『モン肉』、『だれゆう』、『追放された商人は金の力で世界を救う』 (PASH!文庫)、『悪の令嬢』といった具合に次々と作品が公開されていきましたが、並行して少しずつ書き溜めていったものだったのでしょうか。

駄犬:書き溜めてはいないです。書こうとしてどういう話にしようかな、自分はどういう話が好きだったかなと、好きだった映画とか小説とかのことを考えて、思いついたことで1本書いてみようとなってから、ようやく書き始める感じです。そうやって1本ずつ書いてきました。空いた時間で夜に書いたり、朝に書いたり。土日はほぼ書いている感じです。

『誰が勇者を殺したか』誕生の背景

『誰が勇者を殺したか』(角川スニーカー文庫)

――そうやって生み出された作品はどれも面白くて、「駄犬は傑作しか書かない」と言いたくなりました。とりわけ話題になったのが『誰が勇者を殺したか』でしたが、この作品はどのように生み出されたのでしょう。他のインタビューでは浅田次郎先生の『壬生義士伝』(文春文庫)のような話を書きたかったと答えていますが。

駄犬:『壬生義士伝』や百田尚樹先生の『永遠の0』(講談社文庫)ですね。インタビューからある人物を浮かび上がらせるような形式の作品が好きで、どれも傑作が多いというか、単純に小説として面白く、いつか自分でもチャレンジしてみたいといった思いがあって、『だれゆう』で構成として使わせてもらいました。ファンタジーになったのは、自分の想像の中で書けるという理由があります。『壬生義士伝』も『永遠の0』も歴史が題材になっていて、ものすごく取材をして書かれているんです。自分の立場ではそれは難しかったのでファンタジーになりました。

――ファンタジー自体は好きで読んでいたのでしょうか。

駄犬:水野良先生の『ロードス島戦記』は読んでいましたし、J・R・R・トールキンの『指輪物語』なども読んではいましたが、特にファンタジーが好きということではなかったです。ただ、Webに掲載されている、いわゆる”なろう小説”にはファンタジーが多く、自分で読み始めて慣れ親しんだ感じがあります。

――『だれゆう』はファンタジーと思わせておきながら、途中で時間SF的な要素が入ってきて驚かされました。

駄犬:そこはゲームのセーブとロードを意識しました。何度も世界をやり直して最終的に敵を倒すというというゲームで、勇者を導く預言者がプレイヤーの視点を表しているというイメージです。特にSFの時間ループ物が好きだったということではなくて、ゲームのように何度も挑戦して最後にクリアするという感じです。

『誰が勇者を殺したか 預言の章』(角川スニーカー文庫)

――すると、続編を書いて欲しいとなった時は大変だったでしょう。クリアされてしまったゲームの続きを書くということですから。

駄犬:嫌だなあって思いました(笑)。きれいに終わらせているのでこの後どうしようかと思いましたが、まだ書けることもあったので『誰が勇者を殺したか 預言の章』(角川スニーカー文庫)を書きました。『だれゆう』の元のストーリーに登場する主人公が、どこか人間離れしているというか模範的過ぎると思っていたんです。宮沢賢治の「雨ニモマケズ風ニモマケズ」のような感じの人間で、なかなかなれるものではないんです。それで、もっと人間らしい人間を主人公にしてみたいという思いがあって、レナードを作りました。

――金に汚いけれど、やることはしっかりやって活躍してのけるキャラクター像がカッコ良かったです。

駄犬:ありがとうございます

『誰が勇者を殺したか 勇者の章』(角川スニーカー文庫)

――『だれゆう』とは表と裏で重なる感じでシリーズに厚みが出ました。それだけにもう1冊、第三弾を出すとなった時、どうしようと思いました?

駄犬:どうしようかなと思ったんですけど、『預言の章』があまりミステリー色のないものだったので、もう少しミステリー色があるものにしようかと。それで勇者というものは誰もがなれるというものではないということをテーマにして、『誰が勇者を殺したか 勇者の章』を書きました。やはりミステリー要素を入れるのが好きなんです。本としては引きになるので取り込んでおきたいですね。あとは1巻の勇者パーティーが活躍する話なので、読者に楽しんでもらえるかと思いました。

――こうなると第4巻もという希望も出てきます。プレッシャーはありますか。

駄犬:特に大きなプレッシャーはないです。書きたいことを書くだけですから。『預言者の章』が書けたので、『賢者の章』『剣聖の章』『聖女の章』とかを書いていこうかと。ただ本当の続編は書かないと決めています。今までの事件の裏側で起こっていたようなことになるでしょうね。3巻でマリアがいったい何者なんだという感想が出て来たので、マリアのことを掘り下げて書いていかなくてはという意識はあります。そこは少しプレッシャーですね。

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