上田竜也が語る、初小説の主人公に託した想い「みんなで一緒の方向に歩いていきたい」

自身が思う、仲間のあり方
――作中、人気バンド「キャッツ」のボーカル・ヤスが「君は本当の意味で仲間を理解している?」と龍に尋ねるシーンがありましたが、上田さんが本作で伝えたかった「仲間のあり方」とはどんなものですか。
上田:最後の方で、龍は自分が思っていることを言語化します。その中には今まで言えなかったこともあれば、お互いが気を使って、グループ活動が円滑に進むためにしてきたこともあります。ささいなすれ違いでどんどん悪い方向に向かってしまう中で、「本当はこう思っていた」とメンバーに全てをさらけ出して、全力でぶつかっていくんです。
そうやって腹を割って話し合って、「それでも一緒にやっていこうぜ」という気持ちが俺の中では重要なことなんです。その上で、みんなで一緒の方向を見て歩いていくのが「仲間」なんじゃないかなと思います。
――会社を辞めて「zion」のプロデュースを買って出た鶴岡に、龍が出した条件として「俺たちを輝かせろ」と言うシーンがあります。これまでは自分達だけの力で何とかしようとしていた龍が、初めて誰かの力を借りて一緒にテッペンを目指そうとした瞬間だったのかなと感じました。そういった龍の変化や成長をどのように想像しながら描いたのでしょうか。
上田:本作は350ページ近くありますが、最初から最後に至るまでに、龍の思いがどんどん変わって成長していくんです。元々は幼馴染の二人と始めたことが、他のメンバーも加わって活動を始めるけど、鳴かず飛ばずの日が続く。そんな中で、みんなそれぞれの事情を抱えていることもあり、バンドのあり方や将来について口を出すようになった。
メンバー同士でぶつかり合いながらも、それぞれの思いを受け入れていくことが龍の成長になっていったし、ほかの人たちの成長にもつながっていく。その結果、全員が同じ方向を向いて「みんなで成長していこう」という話でもあります。
――本作の中でも、「約束」というワードが心に残りました。「約束」をテーマに一つにした理由を教えてください。
上田:そこにあまり深い意味はないです。ただ、子どもの頃にした、たわいもない「約束」を形にしていくというのが、自分の中でちょっと素敵だなと思ったから取り入れてみた、という感じです。
そもそもバンドをやることになったのも、龍とヒロトは強い思いがあったわけではなく、たまたま見たロックバンドの真似事をしたら、七海が「すごい!」と言ったからその気になっただけなんです。でも、その時にした「約束」をずっと大事にして、大人になってから叶えていくということが素敵だなと思って、この作品のテーマの一つにしました。
構想から10年かかった本作は「自分の子どものよう」
――約10年前に書き始め、2/3ほど書いたところで、当時の事務所から「今は執筆より他の事を勉強した方がいい」と言われて一旦中断を余儀なくされたという経緯がありますが、筆が止まっていた間、どんなことを考えましたか?
上田:当時所属していた事務所から「NO」と言われた時点で、「もうこれは世に出せないな」と思いました。「相手にしてもらえないならもう無理だな」と感じたので、その間に今後どうしようかということも考えなかったし、この小説のことは1回忘れました。
――そこから紆余曲折を経て一冊の本にまとまり、いよいよ発売日が近づいてきました。本作を書きあげた今の気持ちと、届けたい思いを教えてください。
上田:この作品が完成するのに丸10年かかりました。その間グループの充電期間があり、執筆が宙ぶらりんになったこともあったけど、こうして形となって「諦めずにやってきてよかったな」と思います。自分が伝えたい思いを物語として書けたことをとても嬉しいです。曲もそうですが、ある意味、自分の子どもみたいな感覚ですね。
この本は、何かを頑張っている人や、誰かを応援している人に読んでもらいたいなという気持ちで書きました。俺の中では、仲間や夢といった色々なことの大事さを込めたつもりなので、読んでくれた方にもそれがちゃんと届いて、伝わるといいなと思っています。
――もし次に書く機会があったら、どんな作品を書いてみたいですか?
上田:いや、もう次はないです。そもそも小説家になりたいという気持ちで書いたわけじゃなく、この作品が世に出て広がった先に、コミカライズや実写化するのが自分にとっての一つの野望だったので、二作目については全く考えていないです。
例えば、いつかこの話のスピンオフみたいなものを書こうと思えば書けるけど、この作品をみなさんに届けることが自分の使命だと感じていたので、それがちゃんと自分の中で成立したから、俺はもう満足です。
■プロフィール
上田竜也(うえだ たつや) 1983年生まれ、神奈川県出身。2006年に「KAT-TUN」としてデビュー後、08年には自身初のソロコンサート、TATSUYA UEDA LIVE 2008『MOUSE PEACE』を開催。俳優として、09年、舞台『ロミオとジュリエット』で舞台初主演を務める。25年3月末にグループを解散し、現在は個人として俳優や音楽活動など、自分だけのスタイルでエンターテインメントに取り組んでいる。
Instagram:@tatsuya.ueda_kt(https://www.instagram.com/tatsuya.ueda_kt/)
オフィシャルサイト:https://tatsuya-ueda.com/
■書籍情報
『この声が届くまで』
著者:上田竜也
出版社:KADOKAWA
発売日:6月27日
定価:1,760円(本体1,600円+税)
◆KADOKAWAオフィシャル書誌詳細ページ
https://www.kadokawa.co.jp/product/322410001159/





















