上田竜也が語る、初小説の主人公に託した想い「みんなで一緒の方向に歩いていきたい」

上田竜也、小説『この声が届くまで』を語る

 構想から約10年をかけ、初の小説『この声が届くまで』(KADOKAWA)を6月27日に発売した上田竜也。世間から注目されないまま10年が経過しようとしている「zion(シオン)」のメンバーが、バンド活動に全力で立ち向かい、憧れの武道館を目指す青春ストーリー。「この小説に、今の自分の想いをぎゅっと詰めた」と話す上田氏に、作品や自身を投影したキャラクターに込めた思いなどを聞いた。(文・取材=根津香菜子)

初めから鮮明にイメージしていたキャラクター像

上田竜也『この声が届くまで』
――今作を書くきっかけについて「今後のグループのために、KAT-TUNのメンバーとして自分がもっと何かやれることはないか?と思い『物語』を描くという形で自分の想いを表現して、演じてみようと思った」と仰っていましたが、エッセイではなく「小説」というフィクションにした理由を教えてください。

上田:初めは小説にする気はなかったんです。もともと各キャラクターのイメージが自分の中に鮮明にあったので、どちらかというと漫画やアニメの原作を書こうという気持ちが強く、後に実写化して、その主題歌などもできたらと考えていました。そういう話をスタッフとしていく中で、まずは小説にしようという話が出たのが10年前でした。

――今まで作詞はされていましたが、小説を書くというのはまた違ったこともあったのでは?

上田:ゼロから言葉を生み出す作業は作詞するのと同じような感覚だったので、特に苦労したことはありませんでした。セリフを書く時も「どんな言葉を使ったら伝わるかな」と考えるところは、歌詞を書くことと似ていたかもしれないです。

「こういう人が欲しい」と思ったキャラクターを集めてできたメンバー

――登場人物全員が魅力的に描かれていましたが、「zion」のメンバー、龍、ヒロト、誠一郎、毅志、そして光と七海、それぞれのキャラクターはどのようにイメージされたのでしょうか。

上田:僕は昔から漫画をよく読んでいるので、キャラクターの発想もそこからきています。龍が率いるグループには頭のいいヤツが欲しいなとか、その対照としておバカなキャラや、元気な女の子のマネージャーも欲しい。

そこに七海というヒロインがいて、というように「こういう人が欲しい」と思ったキャラクターを書いただけなんです。それぞれに個性があって、似たもの同士ではない人が集まるといったグループ構成は、定番といえば定番なので、苦労したことは全くなかったです。

――今ここに表紙の見本があって、メンバーのイラストも初めて見ましたが、作品を読んだ時のイメージがより鮮明になりました!

上田:僕自身、キャラクター像を想像して作ることが楽しかったし、自分の中にあったキャラクターたちが動いてセリフができていったので、こうやってイラストになったものを実際に見られて嬉しいですね。

――それぞれのキャラクターイメージは、上田さんのこだわりがかなりあったとか。

上田:元々、明確なものができていたんです。例えば、龍は野生的な目をしていて、瞳の色は赤。ヒロトは割と身長が低くて、中性的な雰囲気があってタレ目。誠一郎は長身・黒髪の色白で、メガネをかけていて、毅志はガテン系でちょっとアホっぽい感じ。光はショートカットで元気な女の子、七海は病気を患っていることもあり、少し儚げな見た目といった感じがはっきりとあったので、自分のイメージ通りに描いてくださり、想像通りのイラストになったなと思っています。

――具体的にキャラクター像をイメージできたのは、普段から漫画をよく読んでいたからなんですね。特に好きな作品はありますか?

上田:自分の年代によって変わりますが、『今日から俺は!!』とか『カメレオン』は読んでいました。特に印象的だった作品は『バトル・ロワイアル』かな。「ねえ、友達殺したことある?」というあのキャッチフレーズは、衝撃的でしたね。映画から始まって漫画を読んで、小説も読んだと思います。一番エグイのは小説でした。文字だけなので、そこから想像しすぎて気持ち悪くなって、途中で断念しました (笑)。

 最近は、専らネットの漫画を見ることが多いです。あとは継続している作品で『はじめの一歩』や『今際の国のアリス』といった「死ぬか、生きるか」みたいな系統が好きなんですよ。と言いながらも、『BLEACH』とか『僕のヒーローアカデミア』も好きです。基本的には、ジャンルを問わず色々な作品を読みますね。

――小説はいかがですか?

上田:小説にはあまり触れてきていないのですが、『バトル・ロワイアル』以外に持っている小説を今思い出しました。俺、『フランダースの犬』の小説版を持っているんですよ。以前、「フランダースの犬」のアニメにめちゃくちゃハマって、何回も見直したんです。映画版やスピンオフも探し始めていたら小説があったので、それをネットで買いました。

七海は龍にとって唯一甘えられる存在

上田竜也

――いつも龍を励まし、支える幼馴染の七海ですが、本作における七海のポジションをどのように据えて描かれたのでしょうか。

上田:龍は自分が思っていることがなかなか周囲の人に伝わらないので、誤解されやすい人間なんです。なので、まずは彼の理解者が必要だと思いました。ヒロトと七海は幼い頃からの付き合いなので、他のメンバーよりも龍のことが分かっている二人。その中でも、七海だけは「私は分かっているよ。いつも味方だよ」と言ってくれる、龍にとっては唯一甘えられる存在です。

 龍のようなタイプの人って、割と孤独になりやすいんですよね。それは自分自身も経験したことで、その時の自分の気持ちを龍に置き換えた時に「そういう人がいないと、この先やっていけないだろうな」と思い、七海を登場人物の一人に据えました。七海に限らず、このメンバーがいたから龍は存在できたと思うので、その関係性をどうやって作品の中で作ろうかと考えました。

――龍のライブ会場での観客のあおり方や、「テメェら!」といった口調は上田さんを彷彿とさせましたが、龍にご自身を重ねた、思いを託したところはありますか?

上田:龍はほぼ自分ですね。もちろんフィクションなので、言動が少し行き過ぎているところはありますが、基本的には俺をイラスト化した「龍」が、自分の夢をつかんでいくんだという思いを託したところはあります。

――龍を書いていて、改めて知ったご自身の一面や、気づいた感情はありましたか?

上田:自分の思いって、なかなか相手に伝わらないんだなってことですかね。例えば、作中で龍が「…」と黙っているシーンがあるのですが、編集の方に「この時の龍って怒っているんですか?」って聞かれたんですよ。俺の中で怒っているつもりは全くなかったけど、「怒っていないんだったら、こういう風に表現した方がいいですよ」というアドバイスをもらって書き直したことはありました。

 龍は俺の思いを引き継いでいるから、自分ではそれを理解しているし当たり前だと思っているけど、第三者の方から見れば伝わらないことが多いんだなと思いましたし、そこは少し苦心したところでした。

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