料理コラムニスト・山本ゆり×みお『極彩色の食卓』特別対談「食べ物は絶対に救いになる」

食べ物は絶対に救いになる

みお:『極彩色の食卓』は、特に3巻は書いていても苦しいところがありましたが、「最後には幸せにするから、頑張れ、頑張れ」と思っていました。
山本:やっぱり、キャラクターが物語を進めていくということですね。
みお:そうですね。もちろん、しっかりプロットが立てられて、一から十まで想定通りに進められる作家さんもいると思うのですが、私は途中でキャラが「いやだ!」と言えば、「じゃあ、やめておきますか」と従ってしまうんです。「うどんは作りたくない!」と言うなら、「じゃあ、素麺にしますか」って(笑)。キャラクターと相談しながら決めています。
山本:みおさんご自身も、律子さんに振り回されたひとりだということですね(笑)。どのキャラクターも大切にされていて、読者としても「全員好き!」と思ってしまいます。美術に造詣が深くないと書けないような絵画について描写も素敵ですし、季節ごとの「部屋」も印象に残っています。みおさんのなかで、部屋の風景は完全に想像できているのでしょうか?
みお:いちおう考えてはいるのですが、建築をやっている友人に相談すると「それはありえない」「こんなトタンのところで修復の仕事はできない」なんて言われたりもして(笑)。1巻と2巻には間取りも掲載されていて、こちらもその友人にお願いたものなんです。法律的な観点から「昔に建てられたものなんだろうね」と指摘してもらったり、リアリティの面で助けられています。ビジュアルで再現するのが難しくて“絵描き泣かせ”とも言われますが、小説だったら自由なので。
山本:ありえないんや(笑)。ただ、部屋も含めて情景が本当に美しいので、映像作品になってほしいと思います。映画やドラマで観てみたいですね。
みお:もし実現するなら、ぜひ料理の監修をお願いしたいです(笑)。
山本:ぜひ(笑)。『極彩色の食卓』を読んだ人は、きっと登場する料理を作ってみたくなったでしょうし、物語にちなんだ形で出てくるので、切っても切り離せないですね。ちなみに、みおさんご自身は、料理は完全に独学ですか?
みお:そうですね。自分が食べたいものを食べる、という感じで、自由すぎて計量することを知らなかったんです。レシピを見てもざっと覚えるだけで……。
山本:料理ができる人ってそうなんですよね。なんとなく「これくらいの味」という想像がつくから、量らなくても雰囲気で美味しくできる。
みお:でも、失敗して味が濃すぎることもありますし、山本さんのレシピ通りきっちり計量して作ったら「こんなに美味しいんだ!」と驚きます。計量スプーンも買いました(笑)。
山本:だからお菓子があまり登場せず、比較的ざっくりで作れるスコーンが出てきたんだ、と納得しました。お菓子は計量が大切ですから。
みお:そうなんです。料理は奥が深いですよね。見栄えのする料理も作れなくて、写真を撮っても、いつも茶色くグチャッとしたかたまりになってしまって(笑)。
山本:ただ、器用に作られたものより、そういう料理の方が美味しそうだよな、と思ったりもします。作中ではそんな気軽さのなかに「色」という要素が際立っていて、まさに『極彩色の食卓』というタイトル通りの美しさがありますね。
みお:最初にタイトルを決めて、「絶対にこれでいくぞ!」と考えたんです。食卓といえば家族、家族を題材にするなら血が繋がっていない関係をーーというふうに軸が決まっていって。もともとウェブで発表したものからかなり改稿していて、特に第一話は何回も書き直したのですが、タイトルは変わりませんでしたね。執筆のペースは早い方で、一気に書き上げてしまうのに、書き直しには時間がかかるんです。バーッと書いて、ダメだったらすぐに「捨てる!」という(笑)。
山本:でも、確かに一気に書き上げられたものだろうという感覚はありました。本当に芸術家ですね。今回、SSで書いていただいたチャーハンなどは、丁寧に作ることを意識しすぎるより、まさにガーッと勢いで作った方が美味しくなる例かもしれません。いずれにしても、みんな絵が好きな素敵な人たちで、食べ物に救われていく、というのが『極彩色の食卓』の醍醐味ですね。
みお:食べ物は絶対に救いになると思いますし、「食べて少しでも救われてくれ……!」という思いで書いていました。

山本:芸術も人を救いますが、食べ物は絵画や音楽と少し違って、人を物理的にも満たしてくれますよね。五感を通じて本当にいろんな救い方があるんだな、と感動しました。
みお:特に食事は大切で、人は空腹だと悲しくなりますし、お腹いっぱいだと怒りようがない。食べながら怒る人って、あまりいないですよね(笑)。私自身もイライラしている人を見ると、「ご飯食べに行きましょうか?」と言いたくなります。
山本:料理も人のためですが、作中では絵画も人のために描いている人が多いですよね。音楽をお母さんに聴いてもらう、という話もそうですし、みんなが誰かのために頑張っている。すべてのキャラクターが本当に好きです。燕くんもちゃんとアイデンティティを確立して、画家ではなく修復師の道に進むというのも納得感がありました。
みお:律子さんのような天才肌が近くにいることもあって、画家はきっと無理だったんだと思います。実際の修復師の現場はもっとデジタルで、X線を通して確認したり、細かく緻密な作業だったりするのですが、燕くんは人が描いた絵から何かを感じ取る能力は高いから、「治す」ことが彼の道だったんだなと。細かい作業が好きそうですしね(笑)。
山本:絵画を修復しながら、自分の傷も治していく。後日談もたっぷりで、最後まで素晴らしい物語でした。
みお:ちゃんとラストまで描くことができて、みんなが幸せになってよかったです。
山本:『極彩色の食卓』は完結しましたが、例えば別の作品で、不意に10年後の彼らが登場してくれないかな……と思ってしまいます。漫画でも読みたいし、映像も観てみたい作品なので、今後にも期待しています!

■書誌情報
『極彩色の食卓 ホーム・スイート・ホーム』
著者:みお
価格:803円
発売日:2025年6月20日
レーベル:ことのは文庫
『極彩色の食卓 ホーム・スイート・ホーム』特設ページ
https://kotonohabunko.jp/special/gokusaishiki/





















