B≡FULLEST・中村朱里、小説『劇団拝ミ座』に感じたシンパシー「私たちのことを書いてる?って思った」

結婚式を目前に、夫を残して亡くなってしまった花嫁。生前勤めていた会社で、切り裂き事件の犯人と噂され困っている編集者――。
そんな、現世に未練を残して亡くなった人たちのために、やり直したいシチュエーションを再現して空へと送り出す“劇団拝ミ座”の活躍を描いた『劇団拝ミ座 未練のひと時と異能の欠けた青年』( 森原すみれ/ことのは文庫)。人一倍感受性の豊かな主人公・遥が、劇団拝ミ座の座長・雅や和泉とともに亡き人の心残りをすくい上げていく、心温まる物語だ。
では、そんな本書を主人公と同世代の女性はどう見るのか? 元・虹のコンキスタドールで、現在はB≡FULLEST(ビフレスト)で活動している中村朱里に感想を聞いた。取材当日、付箋がいっぱい貼り付けられた本書を抱え、姿を見せた中村。舞台俳優としての活動経験も多く、劇団への理解も深い彼女ならではの視点にも注目してもらいたい。
「仕事」とは思えないくらい温かい劇団です
――まずは、読んでみての率直な感想を伺いたいです。

中村朱里(以下、中村):とてもピュアな作品だなというのが、第一印象でした。亡くなってしまった人、亡くなった人のことを思い続ける周りの人たち、そしてその人達を「助けたい」と思う拝ミ座の3人と、みんなの優しい思いが交差していて、読んでいる最中は涙が止まらなかったです。作品の中で、ユリの花言葉として「純粋」「無垢」というワードが出てきたんですが、作品自体にもピッタリな言葉だと思いましたね。
なかでも、涙の表現方法が素敵で印象に残っています。主人公の遥は、触れた物に宿った記憶や思いを受け取ってしまうという特殊な体質の持ち主で、それをずっとネガティブに捉えてきたけれど、拝ミ座では活かすことができて。最初のお仕事を終えたときには、花嫁さんと雅に感謝されるんです。そこで、目をうるませた遥のことを「温かく笑った雅が、ゆらゆらと不安定に揺れて映る」と表現されているんですよね。これが、すごく良くて! グッときちゃいました。
――この作品の温かさを感じられる場面ですよね。
中村:そうですね。愛情という名の心のつながりを感じました。作中では拝ミ座で働くことを「仕事」と言っていますけど、「仕事」とか「職業」と言うのも違和感を覚えるくらい温かな心が見えましたね。

――中村さんも、身近な人との心のつながりを意識していたりしますか?
中村:どうだろう……。遥は、周りの人の微妙な表情の変化や会話の間を必要以上に感じ取り、考え込んでしまう一面もあるじゃないですか。だからこそ、周りに優しくできるし信じようとする人物ですけど、私は逆で、周りの人の表情や会話の間を敏感に感じ取って、遠ざけてしまうタイプなんです。だから、共感できる部分はありつつも「私にも、遥みたいになれる道があったのかな?」と、ちょっと苦しくなってしまいましたね。
――また、雅や和泉についてはどう感じましたか?
中村:雅は、遥に対して序盤から「君のことは絶対に守る」というスタンスを貫いている人で。「ここまで思ってくれるんだ。素敵だな」と思う一方で、「そう言っているこの人が、儚く散ってしまいそう」という危なっかしさを感じました。
それに、絶対に踏み込めない壁を持っている人ですよね。壁の先にあるものは、読み進めるにつれてだんだんと明かされていくんですけど、それがわかったとき、「雅も、救われたかったんだな」とわかって。人の変化を過敏に受け取り、「雅を救わなきゃ!」と強引にでも壁を突破する遥はすごいなと思いましたね。
で、和泉は、ツンデレキャラということで。ずるいですよね、好きになっちゃいますよこういう人は(笑)。

――きっと悪い人じゃないなとわかりますよね。
中村:雅を心配する遥にさりげなく優しい言葉をかけたり、助け舟を出したりするところもいいですよね。表立って何かをするわけじゃないけれど、気づいたら下から支えてくれているような人。言葉よりも行動で示すところも素敵です。
舞台化してほしいけど……遥役は大変そう!
――お話を聞いている感じ、『劇団拝ミ座』をしっかり読み込まれている印象ですが、普段から本は読みますか?
中村:いえ、小説はそんなに読まないんです。学生の頃、読書の時間にちょっと読んでいたくらいですね。でも好きな小説を何度も読んだりしています。特にSFが好き。小説って、自分の頭の中で情景を描きながら読んでいくのが楽しいから、物語が現実離れしていればしているほど小説の世界に入り込めるんですよね。
それでいうと、『劇団拝ミ座』もファンタジー要素があるので没入できました。読んでいるとき、アニメ化や舞台化する未来まで想像できましたね。

――確かに、メディアミックスするのも面白そうですね。ただ、遥を演じる役者さんは大変そうです。遥は、亡き人の霊を憑依させるのが仕事ですから。
中村:憑依してからは別の人が演じるというやり方もあるかもしれませんけど、遥の体に霊が憑依する設定だから、遥役の人が演じ分けないといけない気がしますよね。ただ、憑依したことがはっきりと伝わらなければいけないから、表現の仕方にも工夫が必要になりそう。