『ミステリマガジン』『SFマガジン』など各紙でホラー特集続々 怪奇幻想ライターに聞く、2025年夏のホラーブーム

『ミステリマガジン』など各紙でホラー特集

ホラーブームの輪郭が見えてくるおすすめの3冊

 書店では関連書籍のポップや平積みも目立つが、空前のホラーブームとなった今年の夏に読むべき作品はどのようなものがあるだろうか。朝宮氏にいくつかのオススメホラー本を挙げてもらった。

「モキュメンタリーにハマった人には、背筋さんの2024年の小説『口に関するアンケート』(ポプラ社)をおすすめしたい。60ページほどのすごく短い小説で、本も手のひらに収まるぐらいの大きさ。ある大学生グループが心霊スポットに行った体験談を語るという内容なんですが、不思議な佇まいのこの本を読み進めていくうちに、非常に不気味な光景が浮かび上がってくるんです。モキュメンタリーというのがどういうものか興味があるという人にも手に取ってもらいたい一冊です。

 また、モキュメンタリーブームの一方で、フィクションとしてのホラー小説もしっかり生まれていて、『リング』『らせん』で知られる鈴木光司さんの新作『ユビキタス』(KADOKAWA)が本当に怖い小説でした。今回の新作では鈴木さんが数十年ぶりに『リング』を意図的に語り直しているような展開もあり、人々が次々と謎の死を遂げていくというホラーです。身近な恐怖を描くモキュメンタリーとは正反対に、『ユビキタス』は人類史や宇宙といった知識がふんだんに盛り込まれたスケールの大きな作品。対局にある両者を読むことで近年のホラーの輪郭が見えてくるはず。

 あと、今のホラーブームを牽引している作家として欠かせないのが『ぼぎわんが、来る』のデビューから今年で10周年を迎えた澤村伊智さん。5月28日に文庫化された『怪談小説という名の小説怪談』(新潮文庫)もおすすめの作品です。今、実話怪談と呼ばれるジャンルが流行っていますが、澤村さんは実話的な要素を取り入れながらも小説ならではの人物描写や、どういった順番で語るか、などテクニカルに怖い話を書く作家です。ドキュメンタリーのようなホラーがある一方で、こうした文学としての怖い本が生まれるということで、成熟したホラーブームを象徴する一冊でもあるように思います」

 ホラー小説は読後感が気持ち良いものではないという見方をする人も少なくないはず。なぜ、現代人はホラーを求めるのか、朝宮氏は「やはり怖いというのは楽しい。身の回りに起こる恐怖はシャレにならないですが、小説や映像などで恐怖をバーチャルに体験するというのは人間にとってすごく興奮することなのだと思います」と指摘する。

「また、“スッキリした”とか“感動した”とかと同じように“怖かった”ということをカジュアルに楽しめるようになってきた。SNSでも“怖かった”という体験は感想として共有されやすく、ホラー作品がコミュニケーションのアイテムにもなっているように思われます」(朝宮氏)

 ホラーの読書体験は、ただの恐怖ではなく、“知らない世界と出会う刺激”そのものだ。今年の夏は、あなたもそんな一冊に触れてみてはどうだろうか。

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