東村アキコ『かくかくしかじか』映画好評ーー漫画世界を実写化するための優れた技法とは? 永野芽郁の演技から考察

実写化映画俳優としての集大成
「魔法を見てるみたい」と本作の永野の演技を評したのは、『日曜The NIGHT アキコとオサムが一夜限りの緊急生放送』(ABEMA SPECIALチャンネル、5月18日放送)に出演した原作者・東村アキコである。東村がさらに「天才だなと思いました」と目を見張るのは、本作の座長である永野が、実写化俳優としての覚悟をもってキャリアを歩んできたからだと僕は強く思う。
全編尺126分の本作が大きく時間を割いて描く1990年代末、鈴木仁演じる今ちゃんが信じて疑わないノストラダムスの大予言の期日がまさに迫る1999年に永野芽郁は生まれた。この生年を逆算しながら、2025年に公開されている本作の主人公を演じることが永野の宿命というと大げさだろうか? 中学2年生の永野が単身地方ロケに身を投じて俳優という職業に本気になった作品が『繕い立つ人』(2015)だったが、この映画もまた池辺葵による漫画作品を原作とする実写化作品。あるいは、ラジオ『三菱重工 presents 永野芽郁 明日はどこ行こ?』初回放送で「永野芽郁の人生が大きく動き出したなと感じる作品」として挙げていた一作が『俺物語!!』(2015)であり、これも実写化作品(東村原作ドラマ『東京タラレバ娘』(日本テレビ系、2017)で超絶あざやか金髪ボーイを演じた坂口健太郎との名共演映画でもある)。
その上で永野の人気を決定づけた朝ドラ『半分、青い』(NHK総合、2018)で演じた漫画家を目指す主人公役、これまた海町ロケーションが魅力的で美術教師役として絵描きを演じた漫画原作映画『からかい上手の高木さん』(2024)を付け加えたら、宿命的キャスティング論も理路整然(?)。『俺物語!!』がヒロイン役を初めて演じた記念作だったなら、『かくかくしかじか』はいわば、実写化映画俳優としての集大成として位置づけられるだろう。
少女漫画を原作とする実写化作品がきらきら映画と呼称されていた2010年代半ば、実写化王子の異名をとった山﨑賢人の『オオカミ少女と黒王子』(2016)が実写化映画の金字塔だとアクチュアルな熱い眼差しを注いでいた僕からすると、2017年に公開された永野主演の傑作きらきら映画『ひるなかの流星』のフランス映画的一瞬のきらめき(詳述はしないが、あるワンシーンがエリック・ロメール的)には圧倒的興奮を覚えた。『オオカミ少女と黒王子』や『ひるなかの流星』に比べたら、正直『かくかくしかじか』の映画的工夫は平坦さの域をでないのだけれど、前半から後半まで永野芽郁の演技が弛緩することは一瞬たりともない。少なくともその前半部分、特に発端として絵画教室でしごかれる一連の場面にふと挿入される昼食場面。弁当を各々持参してきた教え子たちに日高がふるまう熱いお茶を飲む瞬間。原作では明子が「おいしい…」と呟く描写だが、映画ではただ永野がごくりと喉をならすだけ。でもこの一音、そしてその一音をフレーム内に静かに響かせるクロース・アップこそ、漫画世界を実写化するための優れた生身の技法なのだと強調しておきたい。






















