「哲学本」ベストセラー相次ぐ背景は? キーワードは「身近」と「切実」

「忙しい現代人」のための、哲学本
古代ギリシャで生まれ長い歴史を持つ哲学。そうした過去の哲学を学ぶ意味について、吉川氏は「人間がつまずきがちな問題というのがあって、それに対して人間がとってきた態度のバリエーションをモデルみたいな感じで示してくれているのが哲学者。それが哲学史を学ぶメリットのひとつです」と話す。
斎藤氏もまた、「2500年とか2600年に渡って、知るとはどういうことか、正義とは何かなど、同じような問題を連綿と考え続けてきたようなところが哲学の歴史にはある。それだけ長いスパンでタスキを繋ぎ続けてきたのだから、徒手空拳で問題を考えるよりは、先人の考えてきた型を踏み台にすることで、より深く考えていくことができる」と同意見だ。吉川氏は「哲学は”問いそのもの”も知的な貢献となるような学問です。生成AIが発展普及して、なんにでも答えがすぐに吐き出される時代に、哲学から“問い”の重要性を学ぶことができるのではないでしょうか」と語る。
一方で、現代人は忙しすぎることが読書離れに繋がっていることもあるだろう。そうした中、「時間がなくても読める」入門書はありがたい存在だ。

斎藤氏は「2015年に編集・監修した『哲学用語図鑑』(プレジデント社)は、結果的にそうしたニーズに応えたのかもしれません。あの本は“現代人は時間がない”というのをそこまで意識したわけではなかったですが、イラストと短いテキストで重要な概念を簡潔に伝える構成にしています」と振り返る。
哲学というと難解な長文を想像しがちだが、『哲学用語図鑑』の中身を開くと「やわらかく」「優しい」印象を受ける。時間がない中でも“哲学のエッセンス”が学べるこの本は、発売後に瞬く間に話題となり15万部を超えるヒットを記録した。こうした入門書をきっかけに、哲学の奥深さに触れるのも良いのではないか。
かつては「難解」「堅苦しい」と敬遠されがちだった哲学本が、今ではグッと身近な存在となり、社会を生き抜くための実践的なアイデアを与えてくれる。物事や問題を考え、悩むためのヒントがたった一冊の哲学書をきっかけに見つかるかもしれない。






















