大﨑洋「吉本の仕事には関わらない、振り返らないと誓いました」 第二の人生で気づいた、多くの仲間たちの支え

大﨑洋が語る、芸能界の思い出

「マネージャーは芸人の“居場所”を決める仕事」

――大﨑さんは、1978年に吉本興業に入社しました。

大﨑:その頃はやすし・きよしが名実ともにトップでした。それまでの漫才はボケとツッコミが固定されていたのですが、それが入れ替わるやすし・きよしの芸風は型破りで新鮮、まさに天下一でしたね。それでも、漫才は終わった芸能と言われていましたから、入社直後は鬱々とした気持ちでしたよ。「これからなくなる芸能を、頑張って売る仕事をせなあかんのか……」と、暗い気持ちでした。

 「なんば花月」の楽屋に行くと、芸人はみんなお金が無くて貸し借りの話もしょっちゅうだったし、畳の下に小銭が落ちていたら電車賃にしていた時代ですからね。今の吉本はコンプライアンスを守りすぎなくらい守っていますが、当時はマネージャーも休みなしでした。まだ学生気分が抜けていませんでしたから、自分の大事な人生を60歳まで休みなしで働くなんてしんどい。辞めて家に帰ろうと思ったこともあります。でも、すぐ辞めたら「アホな洋がせっかく勤めた」と喜んでいた両親も泣いてしまうと思い、踏みとどまりましたが。

――大﨑さんはその後、多くの芸人と関わり、社長、会長になってからは大胆な改革を進めました。

大﨑:1980年代には今何かと話題のフジテレビが漫才ブームを仕掛けて、新しい才能がどんどん生まれていきました。僕もさんまや紳助竜介を通じてマネージャーと芸人の関係を学んだし、ダウンタウンと出会ってからは、NFC1期生専門の劇場「心斎橋筋2丁目劇場」を造るために奔走しましたわ。ダウンタウンが「ごっつええ感じ」や「ガキの使い」をやりだして、東京に出たことも思い出です。

 2009年に社長になってからは、60年続いた吉本を非上場にしたり、反社会勢力との決別を図ったり、役員を総とっかえしたこともありました。そのぶん、マスコミにいろいろ叩かれることになったけれどね(笑)。

――大﨑さんは、マネージャーを務めていた4代目林家小染さんの事故死が、ご自身の仕事を考えるきっかけになったと述べています。

大﨑:僕は小染さんこそが日本一の落語家だと思っていたのですが、1984年、171号線で車に轢かれて36歳で亡くなった。もっとも愛していた芸人が突然亡くなった出来事は、マネージャーとはいったいどんな存在なのか、仕事そのものを見つめなおす契機になりましたね。

 すなわち、マネージャーは芸人の“居場所”を決める仕事なのだと。芸人のスケジュールを管理するだけがマネージャーの仕事ではないんです。担当する芸人が「世界で一番面白い」と信じる仕事だと、僕は思うんですよ。時には夫婦よりも親密な関係になることもありましたから。芸人の居場所をいかに見つけるかどうか、考え抜いてきたのが僕の吉本人生だったと思います。

「第二の人生は絶好調だけど、頻尿が悩み」

――大﨑さんは多くの若手芸人を発掘し、育成してきました。吉本を離れてからも、若い人たちにエールを送っておられます。

大﨑:若い人たちには、好きなことを好きなようにやっていいと語りたいですね。例えば、若くして会社を辞めたり、ミュージシャンになると言って失敗することもあるかもしれない。もしかすると、両親が「あれはダメ」「こうしなさい」と言うこともあるかもしれないね。

 でも、失敗したって、こけて膝をついたっていいじゃないですか。傷つき、失敗しても、好きなことを続けていれば強くなれる。不器用でも、もがきながら将来の仕事や生き様を探していけばいいんじゃないかと思っていますよ。

 何を隠そう、僕もなかなか自分ではやりたいことを見つけることができなかった。だからこそかもしれないけれど、声をかけてもらえるだけで、ありがたいなと思えるようになった。とにかく僕は、おっちょこちょいのアホなんですわ。それは今も変わらない。だから、吉本を辞めた今も、僕を頼ってくれる人がいれば、テンション上げてやりますよ。

――実際、様々なプロジェクトが動いているそうですね。

大﨑:嬉しいことに、関わっているプロジェクトはいっぱいあるんです。アメリカのブランドを日本に持ってくるとか、中国で流行っているショートドラマを作る会社をやろうとかね。吉本では地方創生にも取り組みましたが、廃校を使ったプロジェクトはやり残したこともあるので、また挑戦したいです。映画祭も来年は京都でやろうかなと思っています。

――ありがとうございました。ところで、本で一番驚いたのは、あの島田紳助さんとの対談が収録されていることです。紳助さんが芸能界を引退されたのは2011年で、まさに大﨑さんの社長時代ですね。お2人には、頻尿という共通点もあるようですが。

大﨑:頻尿は今まで、日本の三本の指に入るお医者さんの診察を受けたり、いろんな薬を試したけれど、残念ながら治らないんですわ。歳のせいかもしれないけれどね。誰か、頻尿を治してくれる名医を紹介してくれへんかな(笑)。

■書誌情報
『あの頃に戻りたい。そう思える今も人は幸せ』
著者:大﨑洋
価格:1,650円
発売日:2025年4月9日
出版社:飛鳥新社

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる