マンガ大賞2位『路傍のフジイ』なぜ人気?  アラフォー独身男の“やさしさ”にハマる人続出の異色作

マンガ大賞2位『路傍のフジイ』の魅力とは

  分かりやすい答えがあるわけではない、自分の抱えている問題が解決するわけではない。でもほんの少し、心が軽くなる――。『路傍のフジイ』は、そんな不思議な効果を与えてくれるマンガだ。「マンガ大賞2025」では第2位を獲得するなど、着々とファンを増やしている同作だが、その魅力がどこにあるのか紹介していきたい。

  同作は、鍋倉夫が2023年5月より『週刊ビッグコミックスピリッツ』で連載している作品。その内容を端的に表現するなら、アラフォー独身中年男性の日常を描いただけの物語だ。しかしその日常を通して、現代社会を生きていくなかで忘れがちな“大切な何か”に触れさせてくれる。

  主人公の藤井は、40過ぎの独身で、非正規雇用の会社員。地味で物静かな性格のため、同僚からはつまらない人間だと侮られ、空気のように扱われている。はたから見れば、まさに「路傍の石」のような男だ。

  同僚の若手社員・田中はそんな彼のことを遠くから眺め、自分が10年後には「ああなってしまうんじゃないか」と恐れを抱いていた。というのも田中自身、目に映るすべてが退屈に感じられ、何とも形容しがたい不安に襲われながら日々を過ごしていたからだ。

  しかしとある休日、田中は街中でばったり藤井に出くわし、何となく尾行することに。田中は目の前で藤井がとる行動が不思議と気になってしまい、最終的には家にまで上げてもらう。すると藤井の部屋にはギターや水彩画、DIYの本など、趣味の幅広さを感じさせるアイテムが並んでいた。

  そこで田中が皮肉を込めて「人生楽しそうですね」と声をかけると、藤井は平然と「はい。楽しいです」と答える。藤井は誰に認められたいという気持ちもなく、ただ純粋に自分のためにささやかな趣味を満喫しているのだった。そんな藤井の何物にも囚われない生き様が、田中にはどうしようもなくまぶしく映る……。ここまでが第1話のあらすじだ。

  田中が人生の退屈さに追い詰められていたのは、世間が押し付けてくる“面白いもの”、“つまらないもの”の価値観に馴染めなかったからだろう。その価値観を一切気にせず、自分の人生を謳歌している藤井の姿に、田中は大きな影響を受けた。そして今までの自分が多くのものを素通りして生きてきたことを悟り、憑き物が落ちたような朝を迎える。

  次に登場する同僚の女性・石川とのエピソードも、藤井の生き様がよく表現されている。石川は私生活でとある秘密を抱えており、会社では猫をかぶって過ごしている上、友達や家族にも自分のすべてを打ち明けてはいない。そのため自然体で生きる藤井のことが気になり、徐々に距離を縮めていく。

  ある時、石川は藤井が本当は面白い人間なのに、社内では退屈な人間だと侮られている……と憤慨してみせる。しかしそんな彼女に対して、藤井はこともなげに「自分がわかっていればいいです」と一言。藤井にとって、人生の価値は他人が決めるものではなく、自分が決めるものでしかないのだ。

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