マンガ大賞2位『路傍のフジイ』なぜ人気?  アラフォー独身男の“やさしさ”にハマる人続出の異色作

マンガ大賞2位『路傍のフジイ』の魅力とは

押し付けもせず、突き放しもしない“絶妙な距離感”

  さらに『路傍のフジイ』の読後感が心地いいのは、藤井と他の登場人物たちの交流に“ほどよい距離感”が保たれているからだろう。説教くさい描写は一切なく、読者に対してメッセージ性を押し付けてくることもない。藤井に感化される人々の姿が、淡々と描かれていくだけだ。

  というのも藤井は他人の目を気にしないだけでなく、他人の価値観を変えるために働きかけることも一切しない。石川をめぐるエピソードでは、まさにそうした距離感が表現されていた。

  実は石川はお金のためにパパ活を行っているが、そのことを誰にも打ち明けていない。一方的に軽蔑してくる人間にも、理解を示すような顔で近づいてくる人間にもうんざりしていたからだ。だが、飲み会の帰り道、藤井に対して自分の事情を打ち明けると共に、「よくないですよね」と自虐めいたことを口走る。

  こうした話の流れなら、何らかの形でパパ活を辞める方向に誘導しそうなところだが、そうはならないのが同作ならではの面白さ。藤井は石川からの問いかけに、「わからない」とだけ答え、何ら善悪を説こうとはしない。そして石川がパパ活を辞めることもなく、世界の見え方が少しだけ変わったことが示されるだけだ。

  ほかにも同作の作中には、ちょっとした悩みを抱えた登場人物たちが次々と登場してくる。しかし藤井は決して彼らに自分から干渉しようとしない。ひたすらマイペースに、自分の人生を楽しんでいく。ただ時折“魔法”が生じるように、藤井の姿を見た誰かが影響を受けることはある……。あえてまとめるなら、同作は誰かの価値観に乗っかって生きることを否定して、自分の人生を生きることの大切さを描いた作品と言えるだろう。

  ついつい世間の価値観に合わせ、自分の生き方を変えてしまいがちな現代社会。そのことに苦痛や退屈さを感じている人は、きっと藤井の言動に癒されるはずだ。

 

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる