『ありす、宇宙までも』漫画家・売野機子のおすすめ書籍は? 千葉雅也の小説など気になる愛読書を紹介

各界の第一線で活躍する方々に、おすすめの書籍を紹介してもらう企画。第3回目に登場するのは漫画家・売野機子氏だ。
売野氏は、2024年6月から青年漫画雑誌『週刊ビッグコミックスピリッツ』で、『ありす、宇宙までも』(小学館)を連載中。容姿端麗で人気者だが、言葉が拙く日々の授業にもついていけない女子中学生・朝日田ありすが、日本人初の女性宇宙飛行士船長になるまでを描いた話題作で、1巻発売時点で漫画好きがこぞっておすすめ作品として紹介するなど、注目を集めている。
そんな売野氏どのような本を読んだのだろうか。アンケートに答えてもらった。
「ジョヴァンニの部屋」ジェームズ・ボールドウィン(Uブックス/白水社)
ーー売野さんが2024年に読んだ本の中でおすすめの本を教えてください。
売野機子(以下、売野):仕事の都合上、人文書をたくさん読むこととなった一年でしたが、ここでは著者生誕100年として復刊された小説「ジョヴァンニの部屋」ジェームズ・ボールドウィン(Uブックス/白水社)を挙げます。

2018年に公開された映画『私はあなたのニグロではない』を鑑賞以来、ボールドウィンの著作を気に入っています。その中でも一番好きな本作の復刊を喜んで購入しました。
人と人の間に起きる無形のなにかを言葉にされる恥ずかしさと悦びを感じます。捨て置く感情や瞬間などない。私やあなたの間に、なんの交換もなかったなどということは、ない。それを信じられる文章が、私が一番読みたいものに他ならないのだと思います。
念願の連載スタート「人の目に触れたことが何よりの喜び」
ーー普段どのようにして、本を選びますか?
売野:仕事上必要な資料であっても、個人的な読書であっても、信頼できる陳列の書店で面陳を一通り眺めると、たいてい良い新刊が手に入ります。X上でサジェストされた、読書傾向が近い人の薦めるものをブックマークして書店に行くこともあります。いずれにしても、冒頭を5p程度読んで購入を決めます。
時間潰しの本として、文庫古本屋のワゴンもしくは現行で岩波赤帯から未読のものを適当に買う習慣があります。
近所に気に入りの図書館があり、背表紙で手に取ることもあれば、司書の方に相談して見繕ってもらうこともあります。
このように並べてみると、ほとんど他者の手に助けられているようです。
ーー今後読みたい本、注目している作家やジャンルがあれば教えてください。
売野:近年では千葉雅也が好きで、短篇集や長篇新作を期待します。彼の著作は小説しか読んでいませんが、プレーンな文体が心に直接届くようで心地良い。
資料として物語以外を読む機会が多いため、ジャンルとしては、プライベートでは小説以外読みません。
ーー2024年はどのような年でしたか?
売野:2023年の春から準備してきた連載をようやく始められて、うれしく、忙しい一年でした。特にここ6〜7年程は、表でお見せしている仕事のかたわら、主人公が大きな夢を目指して力強く進むネームを描き続けながらも、どの企画も最終的な会議に通らず白紙へ…が繰り
返されていました。この形がようやく人の目に触れたことが何よりの喜びでした。
2024年を象徴するアイテム:初の週刊連載で「驚くようなスピード」で消費する原稿用紙
ーーご自身にとって2024年を象徴するアイテム、愛用品を理由とともにご紹介ください。
売野:退屈な写真ですみませんが、私にとって初めての週刊誌の連載で、驚くようなスピードで消費していく原稿用紙です。何度も段ボールで送っていただき、机に補充しても、描いて描いてどんどん消えてゆきます。毎週こなされている先生方には尊敬しかありません。
編集部の名前入りの原稿用紙はうれしいものです。(ちなみに、こんな紙じゃ描けないよ!という先生も多いそうです。私のような者には違いが分からず、ありがたく使わせてもらっています。)
ーー2025年に期待していること、計画、控えている仕事などを教えてください。
売野:「ありす、宇宙(どこ)までも」のヒットを祈願します。今までどの作品もアニメ化の実現に至らなかったので、ありすがアニメになったらかなり嬉しいですね。私は粛々と漫画の続きを描く一年になればと思います。
漫画以外で余裕が生まれれば、久しぶりに映画や本のお話や、読者の皆さまにお目にかかれる機会があれば、なによりです。
漫画家。東京都出身。乙女座、O型。2009年「楽園 Le Paradis」(白泉社)にて、『薔薇だって書けるよ』『日曜日に自殺』の2作品で同時掲載デビュー。『薔薇だって書けるよ―売野機子作品集』(白泉社)、『ロンリープラネット』(講談社)、『MAMA』全6巻(新潮社)、『かんぺきな街』(新書館)、『売野機子のハート・ビート』(祥伝社)、『ルポルタージュ』(幻冬舎)ほか、著書多数。