士郎正宗は『攻殻機動隊』だけじゃないーー担当編集者・桂田剛司に聞く、『士郎正宗の世界展』の見どころ

『アップルシード』や『攻殻機動隊』といった漫画作品で知られる士郎正宗の活動を、圧倒的な画力で表現された手描きの漫画原稿やデジタル出力の原稿によって辿る『士郎正宗の世界展~「攻殻機動隊」と創造の世界~』が、8月17日まで東京都世田谷区の世田谷文学館で開催中だ。すでに大勢のファンが訪れ、未来の都市やコンピューター・ネットワークの中で、美女やメカが戦い暴れる“シロマサワールド”に没入している。生の原稿が並べられすべての作品が集められた展示から感じ取れることは何か? 来場者に見てもらいところはどこか? 講談社で士郎正宗を担当する編集者の桂田剛司さんに聞いた。(メイン画像:左、「士郎正宗の世界~『攻殻機動隊』と創造の軌跡~」ポスター。右、『士郎正宗展公式原画集Shirow Masamune Artworks in the Shell』)
「神」はずっと奥にいるんです

――4月12日に開幕してしばらく経ちますが、連日大勢の来場者で賑わっています。
桂田剛司(以下、桂田):展覧会を作っている側としてはそれなりに自信があって、良い展示ができているという思いはありましたが、それでも「士郎正宗」という人への認知度がどれくらいあるのか不安でした。『攻殻機動隊』なら誰でも知っていて問題ないとは思っていましたが、「士郎正宗」を冠にした時、『攻殻』を見に来たのに少し違うみたいだと受けとられる可能性がありました。始まってからの反響をネットなどで見ると、士郎さんの絵を見ることの価値を感じていただけているようです。
――たとえ『攻殻』しか知らなくても、展覧会に来て生の原稿を見ればその緻密さや巧みさに誰でも感嘆させられます。
桂田:士郎さんの絵のクオリティーには絶対の信頼があるので、来て戴いた方が士郎さんの絵に満足されることは予想していました。ネットの反応では、クリエイターの方が仕上がった原稿よりも下書きの方に興味があるんだということも分かりました。そこまでの過程をどう描いているかということの方が気になっていて、それを見られたので面白かったという評価をいただいています。一般の方からも、単純に絵が素晴らしく、密度もすごいといった声を伺っています。ここまでマイナスな言葉がないのはとてもありがたいです。

――すべての作品を展示したことで、『攻殻』目当てで来た人が『ブラックマジック』や『アップルシード』『仙術超攻殻ORION』といった他の作品についても知って、面白そうだと思ってもらえます。
桂田:確かに『攻殻』は名前が通っていますが、士郎正宗という作家は『攻殻』だけを切り取って成立するものではないと思っています。『ブラックマジック』の頃からずっとひとつのワールドとして繋がっているんです。そうした創造の軌跡というものを体感してもらえるような展覧会にしたかった。僕自身も『アップルシード』や『ORION』が好きというか、昔の士郎さんの絵が結構好きなんですよ。アナログの線画が艶っぽくて色っぽい。そうした時代のものを見せたかったということもあります。
――若い方ですと、『攻殻』も漫画ではなくアニメの映画やTVシリーズで観たという人も多そうです。そうした人たちにも、士郎さんの漫画の凄さを知ってもらう工夫というのは何かされましたか?
桂田:今はまだ、主に士郎さんの熱心なファンの方々がいらっしゃっている印象です。年齢も昔からの士郎さんのファンなら50代や60代といったところで、そういう方は自分から積極的に行こうと思ってくれます。若い人の場合はそうではありません。会場も都心からは少し離れていて、行こうという意欲を駆り立てなくてはいけないところがあるので、そこはグッズのアパレルの力なり、アニメの力を借りて足を運んでもらいたいと考えて、いろいろと用意しました。

――そしてグッズ目当てで来場する人に展示を見てもらい、士郎正宗の凄さを知ってもらう。
桂田:これは常日頃から思っていたことなんですが、「神」はずっと奥にいるんです。アニメやコミカライズといったものが動いていても、本当の「神」がちゃんといるので、そこを紹介したいという想いが自分の中にありました。押井守監督や神山健治監督、黄瀬和哉総監督のアニメもすごくありがたくて、そこを入り口にして『攻殻』の漫画や士郎さんの世界を見てもらえるのはとても良いことですが、やはり大元に「士郎正宗」という人がいるということを、担当編集であり士郎さんが好きな人間として、皆さんに感じていただきたいです。





















