坂元裕二、脚本作『ファーストキス』『片思い世界』同時期に劇場公開 識者に聞く一貫するテーマと変化

坂元裕二、識者に聞く一貫するテーマと変化

※以下、『ファーストキス』と『片思い世界』のネタバレを含みます。

『ファーストキス』と『片思い世界』の違いとは

  SNSでは『ファーストキス』と『片思い世界』が対照的だという意見も見られるが、成馬氏は「実は同じことを描いている」と指摘する。

 「どちらの作品も、最終的に“奇跡は起きない”んです。坂元さんは、“現実は変えられないが、認識は変えられる”ということを描きたいのだと思いました。『片思い世界』では主人公の3人が幽霊で、現実に干渉することができない。彼女たちの立場は観客と同じで、私たちもまたそんな彼女たちの姿をスクリーン越しに見守ることしかできません。『片思い』という言葉は、坂本さんの作品全般を象徴する言葉だと感じました。『ファーストキス』のラストに登場する手紙も同じで、手紙は一方的に思いを伝えるものであり、相手に届くかどうかわからない、『片思い』の象徴と言えます」

  成馬氏は、2作が異なる受け取られ方をした理由について「宣伝方法の違いではないか」と語る。

 「『ファーストキス』が物語上のギミックであるタイムリープを大々的に宣伝していたのに対し、『片思い世界』はネタバレ厳禁で公開されました。上映期間が終わらないと最終的な評価はできかねますが、ネタバレ部分を初めから明かしていたほうが興味を持つ人は多かったのかもしれません」

  坂元が過去に手がけた『怪物』も、ネタバレに対して厳しい姿勢が取られていた。だが、今回を機に宣伝の仕方が変わっていくことも考えられる。

これからの坂元裕二作品への期待

 最新作ではアニメ的な手法を取り入れ、新しい観客層に向けた作劇を試みた坂元。彼の次なる一手はどこに向かうのか。

 「『怪物』が世界的な評価を受けたことで、坂元さんは村上春樹のような、時代を超越した作家になっていくのではないかと思っていました。ですが、映画を手がけるようになってからの坂元さんは、“観客が何を観たいか/観たくないか”を強く意識しているように思います。中でも、『片思い世界』で犯人の視点が描かれなかったのは、個人的に気になりました。『それでも、生きてゆく』のように、坂元さんの描く犯罪者は魅力的ですし、だからこそ“理解できない他者とどう生きるか”というテーマが活きてくると思うので、今度は犯罪者の視点から描かれる物語も観てみたいですね」

  成馬氏は、坂元裕二を「トレンドの半歩先を行く作家」と評した。彼の次回作がどのような形で観客の心を捉えるのか、目が離せない。

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