アニメ制作における“音”の秘密とは? 岩浪美和、鶴岡陽太、三間雅文……第一線の音響監督が語る仕事術

アニメ制作における音響監督の仕事とは?

 アニメには、富野由悠季や押井守といった作品全体を統括する監督意外にも、作画監督や美術監督といった「監督」たちがいてそれぞれの仕事をこなしている。音響監督もそのひとつ。『アニメ音響の魔法 音響監督が語る、音づくりのすべて』(企画・取材:藤津亮太/ビー・エヌ・エヌ)はそうした音響監督たちが、声優の演技や劇伴の指定、効果音の挿入といった広い仕事をこなしていることを紹介。絵とともにアニメを形作っている“音”の秘密に迫っている。

岩浪美和が語る「いかに観客に楽しんでもらい、映画館を盛り上げるか」

「映画館でなければ味わえないダイナミックな音響を付けているつもりです」。3月15日から20日まで開催の第3回新潟国際アニメーション映画祭のプログラムとして、15日に吉浦康裕監督の『アイの歌声を聴かせて』(2021年)が上映された際、音響監督を務めた岩浪美和が舞台挨拶に登壇し、早めに会場入りして自ら音響を調整し、観客に楽しんでもらえるようにしたことを打ち明けた。

新潟国際アニメーション映画祭の舞台挨拶に立つ『アイの歌声を聴かせて』の吉浦康裕監督(左)と岩浪美和音響監督(右)

『ガールズ&パンツァー』で迫力の戦車戦シーンを音で支えたかと思ったら、『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』などの『青春ブタ野郎』シリーズで情感を誘う繊細な音の空間を作り上げる音響監督の第一人者。最近は、映画館に出向いて音響を調整し、ダイナミックなサウンドの中で映画に没入できるようにする活動を続けている。『アニメ音響の魔法 音響監督が語る、音づくりのすべて』には、岩浪へのインタビューが収録されていて、どうして映画館を盛り上げようとしているかが語られている。

 どのようにして音響監督になったのかも紹介。映画が好きで音響の仕事があることを知って専門学校に行き、卒業と同時に音響制作会社に入っていった流れは極めてストレートだが、背後に何百本も映画を観た経験があって、それが劇伴を入れるタイミングや使う音楽のセンスに表れていることがインタビューから伺える。

アニメの「音」を支えるのは声優だけではない 音響監督・鶴岡陽太の仕事術

 また、『アニメ音響の魔法 音響監督が語る、音づくりのすべて』は、『響け!ユーフォニアム』シリーズや『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』で音響監督を務めた鶴岡陽太が協力者として登場し、音響監督の仕事について詳細を語っている。そこでは、過去に手がけた仕事の繋がりで依頼が来ることが多いこと、『響け!ユーフォニアム』は音楽へのこだわりが強いことを確認して作業に臨んだことが明かされている。

 アニメで音というと、真っ先に浮かぶのがキャラクターを演じる声優たちの声だが、ここにはもちろん音響監督も絡む。オーディション時に意見を求められれば出して事務所に伝えてもらい、実際のオーディションでは興味を持った声優に『「もう少しこういうのをやってみて」とお願いして深掘りして』確認していく。

 深いやりとりはしないが、「最低限その人の個性、オーディション会場に入ってからマイク前に行くまでの立ち振る舞いは観ています。そういう部分は作品に臨む時の姿勢にも反映されると思うので」とのこと。オーディションに臨む声優たちは覚えておきたいポイントだ。

 実際のアフレコでは、『役としてそこに「在って」ほしい』という意識から、『「ナチュラル」ではなく「リアル」』な演技を求めていく。舞台の演出家が灰皿を投げつけ厳しい言葉で演技を引き出す“伝説”があるが、鶴岡の場合は『マイクの前に立ったその瞬間だけ役としてできればよい』というスタンス。『演技に実在感を感じられなければリテイクをお願いしますが、材料として適切な演技をもらえればそれで問題ないと判断する』そうだ。

 もちろん、これは音響監督が望み作品が求める演技を声優たちがしっかりこなしているからこそ成り立つこと。音響監督もプロなら声優もプロ。その相互作用が今のアニメを支えていると言えるだろう。

 鶴岡へのインタビューでは、アフレコ前に劇伴の発注があり、出来上がった音楽を選んであてはめていく仕事もあると音楽面での役割も語られている。興味深いエピソードは、『ラーゼフォン』で音楽家の橋本一子と仕事をして、それまでのカチッとハマる音楽を作ることから、「より価値のある音楽を作るとという方向にシフト」したこと。「曲調ではなく“曲想”を伝えるようになりました」という言葉から、鶴岡の携わった作品が、音楽から作品の精神性までもが感じ取れるものになっている理由が伺える。

 以後、選曲や音楽編集、ダビングといった仕事をこなしていくことが語られた先で、音響監督になるために大切だと思うことを聞かれた鶴岡は、監督に専門的でテクニカルな知識や技術を求められることが多くなっており、「技術面のバックボーンは身につけておいた方がよい」と語っている。演技のディレクションを担う監督が増えていることもあるそうで、これから音響監督を目指す人たちが覚えておきたいポイントだ。

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