「令和は訳アリの人たちが認知されやすくなった」 ヘルス嬢3人を取り巻く人生譚『バルバロ!』著者・岩浪れんじインタビュー

『バルバロ!』岩浪れんじインタビュー

「時代のうつりかわり」で生まれたもの、なくなったもの

──『バルバロ!』1巻の描き下ろしページに「時代のうつりかわりが好き」と書いていますね。『コーポ・ア・コーポ』は平成、『バルバロ!』は令和が描かれますが、平成と令和で一番変わったものは何だと思いますか。

岩浪:ひと言ではいえないですが……その時代ごとに「生きやすい人」「生きにくい人」が変わってるんじゃないかと思います。たとえば令和はヤンキーが減ったのもそうだし、仕事の形態はリモートが普通になったし。そこでついていけず取りこぼされる人もいる気がしますね。

 あと、機能不全家庭などは令和のほうが認知されやすくなった気がします。『コーポ・ア・コーポ』は訳アリな人たちが出てきますが、リアル平成時代は「そこに触れちゃダメ」な雰囲気がありましたから。でも、令和はSNSやテレビの影響で彼らを見つけやすくなったとは感じます。

──そのような変化は『バルバロ!』にどう反映されていますか?

岩浪:絵的にわかりやすいものと、人の考え方の両方で表したいです。絵については、進化のスピードが一番速いのが携帯電話なので、QRコードの注文シーンなどを入れてますね。あと、町に行ったときは若い子のスマホケースを必ずチェックしてます。

 人の考え方でいうと、マンガのキャラクターたちは人と接するときに「今、何に配慮すべきか」を考えてるんですが、平成と令和ではそれが大きく変わったと思います。

平成にはなかった、令和の元ヤンの「ある配慮」

──「配慮すべきこと」が変わった?

岩浪:『バルバロ!』の主役3人の年齢は『コーポ・ア・コーポ』に出てくる女の子たちよりも上げているんですよ。

──コミックス1巻の表紙も飾ったまゆみちゃんは、店での年齢が32歳ですね。チナツちゃんが27歳、シヲちゃんが24歳。

岩浪:実年齢は違いますが、彼女たちがその年齢になるまでに身につけたコミュニケーション方法はどんなものか、その一方で、自分と全く違う人と仕事で接するときに「大人」としてどう対応すべきか、という対比は意識して見せるようにしています。

──大人としての対応。

『バルバロ!』1巻 P013より(©︎岩浪れんじ/双葉社)

岩浪:たとえば、ヘルス嬢にヤンキー口調の「チナツ」というキャラクターがいます。彼女は「人前では自分の暴力性を見せないようにする」という意識があるんですけど、平成のヤンキーはそんなこと思ってもなかったんじゃないかと。

──チナツは店舗年齢は27歳。実年齢はもう少し上だとすると、平成ヤンキーだったんですね。

岩浪:でも時代は令和、チナツは20代後半になり「ちゃんとしないとダメだ」と意識が変化したと思うんですよね。

──平成のチナツだったら、暴力性はそのまま出していたかも?

岩浪 そうですね。そもそも暴力自体がダメなんですけど、平成なら暴力がなんとなく黙認されるような場所で生きていけばよかった、という気がします。

『コーポ・ア・コーポ』のキャッチコピーで初めて知った「世間の目線」

──岩浪さんご自身は、ヤンキーだった時代がありますか。

岩浪:や、私は全然めっちゃビビリなので、ヤンキーではなかったです。でも平成はヤンキーがたくさんいたし、私は15で家を出たので、周りにはかなり多かったですね。

──平成はヤンキー友達がたくさんいた。でも、やがて「ちゃんとしなきゃ」と。

岩浪:今はすごくそう思ってますね。私はヤンキーではなくても、全然ちゃんとしてなかったので。でも27歳頃からマンガを描き始めて、そう思うようになりました。

──マンガ家になったら「ちゃんとしよう」と? 

岩浪:治験してたときあまりにヒマで、マンガを描いてみたんですよ。それをネットに上げたらマンガ家友達ができ、同人を始めて商業メディアに持ち込み……で今に至ります。マンガの人たちと関わるようになったら、これまで私の周りにいた人間とは全くタイプが違ったので、めっちゃ驚いたんですよ。

 それで自分の過去を振り返ると「あの頃の自分はよくなかったな……」とわかってきて。『バルバロ!』には、私のそういう変化が反映されてると思います。

──『コーポ・ア・コーポ』とは、そこが違う。

岩浪:はい。あれは本当に、私の日常をマンガにしただけで。でも初回が載ったあと、大ショックを受けたんですよ。

 マンガは、編集さんが扉ページにキャッチコピーをつけるじゃないですか。それが「下層生活を描いた云々~」みたいなので。

──世間的にそういう扱いなのか、と?

岩浪:超衝撃的でした。「そうなんや、私は『下層』! なるほど……」と(笑)。

 マンガを描いたことで初めて、一般社会からの目線を知ったんです。私が生きてきた世界とはまったく違う環境にいる人たちの存在を知りました。

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