「令和は訳アリの人たちが認知されやすくなった」 ヘルス嬢3人を取り巻く人生譚『バルバロ!』著者・岩浪れんじインタビュー

『バルバロ!』岩浪れんじインタビュー

本屋に入り浸ったのは「家にいられなかったから」

──岩浪さんご自身について伺いたいのですが、27歳でマンガを描く前はどういうご経歴なのでしょうか。

岩浪:15から働いてたので飲食が多いんですけど、あとは夜職や日雇い派遣、歯科助手、工場で液晶モニタの検査とか……本当にいろいろです。で、疲れたら治験という。

──じゃあ、27歳でマンガを描いたことで、人生がガラッと変わった? 

岩浪:もうね、全く変わりました。自分ができる仕事に「マンガのアシスタント」が加わったんですよ。それで収入的にだいぶ楽になりました。しかもちょうど業界のデジタル、リモート化が進んだ頃だったので、自宅で仕事ができたんですよね。マンガすごいと思いました(笑)。

──これまでにどんなカルチャーに影響を受けましたか。

岩浪:マンガでいうと、ずっと好きなのは『笑ゥせぇるすまん』と『ナニワ金融道』です。あとは、子どもの頃から読んだ本のメモをずっと続けてます。最近は高橋たか子の『誘惑者』がかなりよかったですね。

──本が好きなのは昔からですか?

岩浪:ずっと好きで、本屋に入り浸りでした。うちが自宅にあまりいてはいけない家庭だったので、放課後はずっと本屋か古本屋にいたんですよ。夏休みは朝10時から夕方5時までとか。

 で、本は読み始めたら長いじゃないですか。だから本屋にいれば時間もつぶせるし、ちょうどよくて。

──ジャンルとしては小説を?

岩浪:そうです。池永陽の『走るジイサン』は、中学生の頃に何度も読みました。あとは三浦哲郎とか。自分の中でいろんなブームがあって、たとえば「ミステリを年代順に読んでみよう」「次は筒井康隆を」「何年代のフランス小説を」という感じで、その時々で興味があるものを読んでます。

──フランス文学も。

岩浪:これは、例の『コーポ・ア・コーポ』を「下層生活」と言われたあとですね(笑)。ゾラの『居酒屋』などは「酒と暴力、最下層の貧民を描いた作品」といわれているので、もしかしていい影響があるかもと思い読み返しました。あと、海外ならラテンアメリカも好きです。ガルシア・マルケスやボルヘスの短編とか。群像劇でいえば伊藤整の『氾濫』も素敵だなと。ずっと何かしら読み続けてます。

ヘルス嬢たちの背後にある「イタリア貴族小説」

──読書家ですね。『バルバロ!』を書くにあたり、インスピレーションを受けた作品は?

岩浪:めっちゃ影響されたのは『山猫』です。連載を始める頃に映画と小説の両方を見たんですけど、ヴィスコンティの映画は画面の派手さがいいなと思って。ランペドゥーサの原作小説もいいんですよ。

 『山猫』は19世紀のイタリア・シチリア島を舞台にした名門貴族の話で、年代ごとにさまざまな事が起きて徐々に没落する様子が描かれています。個々の出来事よりも、話全体を俯瞰で見ると時代の流れが描かれていて、とてもいいなと。私も、ひとつの作品で人生の波の揺れ動きを描いてみたいと思いました。

──まさか、まゆみちゃんたちの後ろにヴィスコンティがいたとは。では今後の『バルバロ!』も、ヘルス嬢3人たちの浮沈盛衰が描かれる?

岩浪:実は、彼女たちの過去の清算をしていきたいんですよ。だから未来というより遡る方向で、キャラクターそれぞれの「実はあの時こんなことが……」というエピソードを出していく予定です。

 連載は次を考えながら描くので難しいですけど、キャラクターの人生を小分けに出せるのは面白いですね。最初にキャラクターをつくるときは「この人は最後こうなる」とラストしか決めないことが多いので、途中のエピソードは連載しながら考えてます。『バルバロ!』はバンバン人を増やしていくので、楽しみにしててください。

……と言いつつ、まだ「連載が急に終わったらどうしよう」と思ってる自分もいて。群像劇で各キャラクターの回を描いていると、それぞれを好きになっちゃうので、なんとかラストまで描きたいんですよね。連載が続くように頑張ります。

岩浪れんじ プロフィール

西日本在住。同人誌を経て2018年に商業メディアデビュー。2019年発表の『コーポ・ア・コーポ』は映画化もされ話題に。2023年の『セーフセックス』では作画を務め、現在は双葉社のwebアクションで『バルバロ!』を連載中。

書籍情報

『バルバロ!』
著者:岩浪れんじ
価格:748円
発売日:2025年2月27日
出版社:双葉社

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