喪失や孤独、ままならない人生……悲しみとともにユーモアも感じられる珠玉の11編

悲しみとともにユーモアも感じられる珠玉の11編

 小説を刊行するたびに数々の賞を受賞し、今もっとも注目度の高い作家のひとりといえるイーユン・リーによる『水曜生まれの子』(篠森ゆりこ訳/河出書房新社)が、2025年2月21日に発売される。約20年に及ぶ作家生活の中で、3冊目となる短編集だ。

 表題作でもある「水曜生まれの子」は、マザーグースの有名な童謡に由来している。「月曜生まれは器量よし、火曜生まれはお上品、水曜生まれは悲しみにくれ、木曜生まれは旅に出る、金曜生まれは思いやりあって、土曜生まれは働きもの、でも安息日(日曜)生まれは元気いっぱい明るいよ」

 本作はある母親の旅先での話だが、その母親の娘は数年前に自死している。水曜日に生まれ、木曜日に15歳で亡くなったのだ。これは著者のリーの息子が16歳で自死したあとに書かれた物語で、著者の実生活と二重写しにも見える。頭の中で娘と「口論」しながら、旅を続ける母親の道中を、鮮やかに描写している。

 イーユン・リーは、2022年に短編小説におけるこれまでの優れた業績に対して贈られるPEN/マラッド賞を受賞した。選考委員のひとりはリーのことを、「どの物語も、発掘されたばかりの新発見のように感じさせる才能を持つ」と評した。本書は2024年のピューリッツァー賞の最終候補に、また同年のロサンゼルス・タイムズ文学賞フィクション部門の最終候補作に残った。また本書所収の「かくまわれた女」は2015年の英国のサンデー・タイムズEFG短編賞の受賞作だ。本書の著者の筆致は以前にも増して研ぎ澄まされ、年齢と経験を重ねたことで他者への想像力もますます豊かになったように感じられる。喪失や孤独など、重いテーマを扱いつつもユーモアが感じられ、一編一編が大変読み応えがある。

 本書に収録された11作品のうち、もっとも古いものは2009年、もっとも新しいものは2023年に発表されており、14年間のうちに発表されたなかから厳選された、珠玉の作品群だ。収録している作品のタイトルは以下のとおり。

 「水曜生まれの子」 Wednesday's Child/「かくまわれた女 」 A Sheltered Woman/「こんにちは、さようなら」 Hello, Goodbye/「小さな炎」 A Small Flame/「君住む街角」 On the Street Where You Live/「ごくありふれた人生」 Such Common Life/「非の打ちどころのない沈黙」 A Flawless Silence/「母親に疑わせて」 Let Mothers Doubt/「ひとり」 Alone/「幸せだった頃、私たちには別の名前があった」 When We Were Happy We Had Other Names/「すべてはうまくいく」 All Will Be Well

 短編集『千年の祈り』『黄金の少年、エメラルドの少女』および『ガチョウの本』など、優れた小説で数々の賞を受賞。世界中の読者が心を震わせる小説家、イーユン・リーの傑作短編集『水曜生まれの子』発売に注目しよう。

新刊情報

書名:水曜生まれの子
著訳者:イーユン・リー著 篠森ゆりこ訳
仕様:四六変型判/仮フランス装/312ページ
初版発売日:2025年2月21日
定価:2,695円(本体価格2,450円)
ISBN:978-4-309-20918-0
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309209180/
出版社:河出書房新社

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