ジェーン・スーが語る、40代を楽しく生きる方法 「"思春期再び"という感じであの頃を追体験している」
独自の視点と軽妙な語り口により、ラジオのパーソナリティやコラムニストなどとして、同世代女性に圧倒的支持を得ているジェーン・スーさん。吉田羊主演でエッセイがドラマ化された『生きるとか死ぬとか父親とか』も話題となった、"時の人"でもある。
そんな彼女がコロナ禍で綴ったエッセイ『ひとまず上出来』を上梓。新刊に因んでインタビュー……のつもりが、気づけば「人生相談」が繰り広げられていた。(田幸和歌子)
人に会わないことで、意外に調子が良かった
ーーご冒頭で悲鳴をあげそうになりました。「40代になると、写真で化粧が消える』問題。まさに最近の悩みの種でした。
ジェーン・スー(以下 スー):びっくりしますよね。10代のときは、アイラインを入れるとキツネ目になっちゃって、親には「そんなの、いらないのよ」と言われていたのに、今ラインを入れないと顔がぽっしゃりしちゃって。
ーー私はスーさんと同い年なので、40代の直面するアレコレが痛いほどわかります。そんな気持ちが表現されたのがタイトルの『ひとまず上出来』なのでしょうか。
スー:今はコロナ禍で評価軸もよく分からなくなっていて、「ニューノーマル」などと言いつつ、みんな完全に忘れて、昔のノーマルに戻ろうという気持ちでいっぱいじゃないですか。すごく疲れが出ているなあというのは、自分も強く感じていたので、「ひとまず上出来」「ここまでの自分、とりあえずOK!」としたくなったんです。
ーーコロナ禍で生活にどんな変化がありましたか。
スー:私は実はあまり社交的な人間ではないので、たくさんの人に会わないことで、意外に調子が良かったんですよ。ラジオもしばらくは家から放送して、スタジオに行かなくて良い状態だったし、自炊も増えたし、「時間があるって、こういうことだ」「精神的余裕があるって、こういうことだ」と実感できたんです。昨年夏前ぐらいまでは友達と週に1回必ず会って、人のいない銀座や新宿を歩いて、ウォーキングをしたり、自転車に乗ってちょっと遠めのスーパーに行ったり。疲れも完全に抜けて、今までにないタイプの人生の充実の仕方でしたね。
ーー人に会わないことで、ある意味ゆとりができたんですね。
スー:そうですね。でも、そうこうしているうちにスタジオに行けるようになって、顔を見て話すことの大切さも感じましたし、Zoomだと会議などでも声を張り上げなきゃいけないのに対し、気を張らない良さも感じました。そこから徐々に戻りつつあるところに年末に向けての忙しさと重なり、「あれ? あっという間に元に戻っている?」と。もちろん経済を戻さなきゃいけないことはありますが、みんないろいろなことを学んだはずだったのに、なんたる人間の忘却力かと思いつつ、荒波にもまれているのが今というか。今は戸惑い、恐ろしさ、少しの憤りを感じているところです。
ーースーさんのアンテナにひっかかるものにも変化はありましたか。
スー:もともと拡大成長とか上質なものに対する興味は乏しかったですが、よりなくなった気がします。それよりは「より快適に」ということへの興味が出てきて、「では、自分の快適ってなんなのか」というカタチがまだしっかりつかめていないというか。ここから10年の自分が人生の印象を決めるような気がしていて、今までは何も考えず流されてきましたが、仕事量も含めて、いろいろ考えなきゃと思っています。
何者かになるかは、自分じゃなくて人が決める
ーー40代になったら仕事が楽になるというのは嘘、とご著書でも書かれていました。
スー:超ウソです。40代は、女性の気持ちとしては100%楽になると思いますが、忙しいか忙しくないかでいえば、絶対に忙しいよ、と。それと、「何者かになるかは、自分じゃなくて人が決める」とか、自分が「先に教えておいてよ」と思ったことをいくつか本の中に書きました。
ーー自分が何者なのか悩み続ける人は多いですもんね。自分が決めることではないと思うと、肩の力が抜ける気がします。
スー:そうなんですよね。「何者でもない自分」みたいなことって、言葉としてよく出てくるじゃないですか。でも、何者かに自力でなれるかというと、たぶんなれないんですよね。人が決めることだから。そう考えると、どうでもいいと思えてくる。
ーー逆に40代に入って精神的には楽になるのは、どんなところでしょう。
スー:自分が他人より足りないんじゃないかとか、人より幸せに見えていないんじゃないかとかで気をもまなくて良くなったことですね。例えば昔だったら、嫌味を言われたら「私、悪いことしちゃったのかな」とか、どうしても自分に原因を求めて、自分軸で考えちゃうんですね。でも、40歳を過ぎると、「今、機嫌悪いのかな」「人生がうまくいってないのかな」とか、相手軸で考えられるクセがついたので、楽になりました。
ーーご著書を拝読していると、40代以降は特に友達がすごく大事だとも思いました。
スー:そうですね。友達は財産だと思いますね。特に40代以降は友達は「互助会」ですよ。「OVER THE SUN」というポッドキャストをやっているんですが、お互い軽口たたきながら、それほど距離をつめず、ただお互いの背中を見守る、困っているときは助けるというような互助会になっていくんじゃないのかな。