ジェーン・スー 生きづらさを抱える人に寄り添う最新エッセイ「外にはいろんな景色があるし、部屋から出られる窓はたくさんある」
作詞家やラジオパーソナリティー、そしてコラムニストなどマルチに活躍するジェーン・スーが、新刊『おつかれ、今日の私。』(マガジンハウス)を上梓した。つい頑張ってしまう人へ、そっと寄り添ってくれるようなやさしさを届けるエッセイは、発売後さらなる評判を呼び重版を重ねている。
パンデミックとなった2020年からスタートしたWEB連載がまとまった1冊には、毎晩寝る前に一篇ずつ大切に読みたくなるような、明日への希望が湧く48篇が並ぶ。「#夜リラ」のハッシュタグで拡散され多くの共感を呼んだ連載に込めた思い、そして今を生きる女性たちへ向けてのメッセージをお届けしたい。
ねぎらいの一歩手前のような文章が書きたかった
――WEB連載していたエッセイですが、今回1冊の本となって発売になりました。このエッセイを書くきっかけについて教えてください。
スー:この本に収められているのは、天然樹液の足リラシートなどを販売する「株式会社中村」のWEBサイトで連載していたものです。夜寝る前にほっとリラックスできるような読み物を書いてほしいとオーダーがあって、ちょうどよかったなって。
日々いろいろなことが起こるけれども、「大丈夫だよ」「分かるよ」とねぎらいの一歩手前のような文章が書きたかったんです。なかなか厳しいことも多い現実であるけれど、明日はやってくるし、なんとかやっていこうという気持ちでした。
――テーマはリラックスですが、ご自身やご友人の悲しかったり辛かったりする体験を書いています。ご自身では普段、何か大変な出来事が起こった時にどのように気持ちを立て直しているのですか?
スー:何かあっても、今までも結果的に大丈夫だったから、厳しいかもしれないけれど今回も大丈夫だろうなっていう予見は立てられます。私は何かが起こっても友人に折り入って相談はしないし、友人からも相談っていうのは、ほとんどありません。どちらかというと、会ってたわいもない話をつらつらとしているうちに、気になっていることなどが出てきて、お互いに言葉を交わし合いながら「ああ、救われたな」と思うことが多いですね。
自分の窓をもって閉塞感から脱してほしい
――他人のお話なのに、自分に落とし込んで思わず考え込んでしまうような共感性の高いエピソードが多かったです。エッセイを読者に届けるうえで意識したことはありますか?
スー:共感してくれる人が多かったのは、誰も十中八九辛い思いをしているからじゃないかと思います。コロナのことや経済のことなどいろいろあって、今は時代の強度がとても下がっている気がしたので、どぎつい言葉で人の興味を引いたり、気の利いた自虐で笑いを取ったりするのではなく、できるだけやさしく書こうとは考えていました。多くの人に話を聞いてほしいとは思っていなかったので、基本的には一人の人に話しかけるように書きました。
あとがきにも書きましたが、悩んだり困ったりしている時って、窓のない部屋で膝を抱えている状態になっている人が多いように感じます。閉じこもっていても解決するわけではないし、気分を変えることも難しくなってきますよね。でも、外にはいろいろな景色があるし、その部屋から出ることができる窓はたくさんあるんだよと。そのヒントを増やすことができたらなと思って書いていました。
――たくさんのヒントが1冊に散りばめられていますが、頭ではわかっていても実際に行動に移せないこともあります。
スー:最終的に自分のことは、自分で助けなければいけないと思っています。家から一歩出れば誰かが助けてくれてやさしさに触れられることはあると思いますが、閉塞感のある部屋に一人でいても誰もノックはしてくれないし、自分の視界も変わりません。そうなると時間だけが経って閉塞感がさらに増していきます。辛いことは誰だって嫌なはずなのに、その状態だとどんどん辛い方へ向かっていきます。それはもったいないと思うんですよね。
自分にもそういう時期がなかったわけではないですけど、私は人に会いに行って話をしたり、自分から窓を増やして開けていました。このエッセイが窓を増やすためのきっかけの一つになったら嬉しいですね。